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 そのまた翌日。 『薬と花茶を村へ届けてきます。お昼ご飯までには帰ります』  朝方、花の魔女はそう言い残し、村へと出かけていった。  ひとり残された弟子は、ハサミとジョウロを両手に庭の掃除と花の手入れをしながら物思いに(ふけ)っていた。  先生は本当に最高位の魔女なのだろうかと考えながら、雑草を抜く。  花を咲かせただけで胸を張る魔女ってどうなのかと考えながら、花に水をやる。  他の四人に比べるとどうもと考えながら、花を剪定(せんてい)する。  色々な考えが頭の中を巡るうちに、気づけば太陽が真上に登っていた。  昼ご飯の用意をしようとした弟子の目の前に、見知らぬ女性が空からふわりと舞い降りた。  魔女だ。一目見ただけでわかった。三角帽子にローブを纏い、箒で空を飛ぶ女性なんて、魔女しかいない。 「君。花の魔女の家はここかい?」  ニコリと笑った魔女が、弟子に尋ねる。 「はい。ですが、先生は留守にしています」 「お弟子さんか。すぐにお戻り?」 「もうじき戻ると思います」 「なら、ここで待たせてもらおうかな」  魔女が指を鳴らすと、箒がぐにゃりと丸くなり、安楽椅子へと姿を変えた。魔女がそこへ腰かける。 「お茶を淹れてきます」  魔女を客だと思った弟子が言うと、魔女が甲高い声で笑った。 「お茶、お茶か。いいよ、いらない」  魔女が身を乗り出して弟子を見る。 「それより、花の魔女のことを聞かせてほしいな。どんな魔法を使うのかな?」  嘲笑(あざわら)うような笑みに、(から)みつくような視線に、弟子は本能的に危険を感じ取った。 「答えられません」 「そうか、残念だなぁ」  ニタと笑って魔女が姿勢を戻す。安楽椅子が、キイと音を立てて揺れた。
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