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 しばらくして、帰宅した花の魔女が庭に現れた。 「ただいま戻りました。そちらの方は?」 「あ、先生。お客様のようです」 「こんにちわ、花の魔女」  安楽椅子から立ち上がった魔女が大仰(おおぎょう)に会釈する。 「初対面かと思いますが、お名前は?」 「黎明(れいめい)の魔女。第一位の魔女だ」 「ああ、悪いお(うわさ)をいくつか。ご用件は?」  黎明の魔女が指を鳴らす。  揺れていた安楽椅子が――魔女の背丈ほどもある杖へと姿を変えた。 「勝負しろ」  魔女の臨戦態勢とも言うべきその姿を前に、しかし花の魔女は眉ひとつ動かさない。 「目的は?」 「白々しい。お前を蹴落とし私が最高位につく。それだけだ」  そこで、弟子がようやく理解する。  この魔女は客などではない。先生と決闘して打ち倒し、最高位の魔女になりかわるつもりだと。 「なるほど」  花の魔女が、微笑んだまま一礼する。 「どうかお引き取りを」 「そうはいかない」  ()き出しの殺意とともに杖を向けられ、しかし花の魔女は少しも動じない。 「戦いたくありません」 「戦えないだけだろう。お花が大好きな魔女さんよ」  あからさまな挑発に、しかし花の魔女は顔色ひとつ変えない。 「悪いことは言いません。どうか」 「なら――仕方ないな」  黎明の魔女が、手にした杖を振り上げ、弟子へ向けて振りかざした。  不可視の衝撃波に弟子の体は吹き飛ばされ、家の壁に激突する。  弟子の背中が壁を伝い、体がずるずると崩れ落ち、地面に咲いていた草花を押しつぶした。
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