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 動かなくなった弟子を、花の魔女が一瞥(いちべつ)した。 「やる気になったかい?」 「にはなりました」 「上等だ」  ニタリと笑い、黎明の魔女が杖を構え、 「ところで」 「あ?」  花の魔女の言葉に、黎明の魔女が怪訝(けげん)な声を出す。 「弟子に手を出した時点で決闘は開始された、それでよろしいですか?」 「何を呑気(のんき)な」 「大切なことです。終わってから文句を言われたくありませんので」 「はっ」  黎明の魔女が鼻で笑い、口角(くちかど)を吊り上げる。 「もちろん、いつ仕掛けてきても構わないさ」 「わかりました」 「とっとと杖なり使い魔なり出しな。それくらいは待っ――」  黎明の魔女の言葉が途絶(とだ)え、口元から笑みが消える。 「な、なん、だ?」  途切れ途切れに言葉がこぼれ、その姿が急速に変化する。  顔からは色艶(いろつや)が消え、無数のシミと皺が刻まれる。首は細り皮と骨だけになり、手は節くれ立ち血管が浮き出る。  ――老いていくその様を、花の魔女は静かな笑みを(たた)えて見つめている。 「ああぁ! ああああ!」  帽子はほつれて形を失い、服は裂けて破れ落ちる。装飾品は色褪(いろあ)せ錆つき、宝石はくすみ光を失う。  ――朽ちていくその様を、花の魔女は何も言わずに見つめている。 「ああ。あぁ」  足腰の弱った年寄りのように揺れ動く。すがりついた杖はポキリと折れて、地面に砕けて木屑(きくず)へと成り果てる。  そして、もはや見る影もない老婆となった黎明の魔女が、地に倒れ伏した。 「あぁ……あぁ……」  もはや(しわが)れた声で呻くばかり。  花の魔女はその姿から目を離し、空を見上げて目を閉じた。  直後、何もない宙空(ちゅうくう)から――霧の魔女が現れた。
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