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「墓参りや」
「そう」
俊也は少し後ろめたくなった。自分の落ち度を瑠璃の墓参りを名目に隠そうとしたのが、少し痛かった。
よくよく考えれば、前妻の墓参りを理由に会社を早退できるわけでもないし、そうであれば予め休暇を取って行けば良い訳で、スーツを着ていること自体が奇妙になる。
だが、依瑠は追及はしなかった。ただ、物覚えもつかない一瞬の間に会っていたであろう実母の事は、父にとってどういう存在であったかを何となく肌で感じて育ったので、空気の些細な冷たさが感じられて、ひと言だけ返したのだった。
「おとんは──」
依瑠は何か言いかけてやめた。声は列車の音に消され俊也には聞こえなかった。
「」
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