親父の娘(仮題)

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 音楽家(おんがくや)の夢が(つい)えた後、男は、今まで省みることのなかった家族へとその熱意を傾けていった。妻が妊娠した時は喜び(ほう)けて曲を書いたが、妻からは「ダサい」と一蹴されたこともある。  しかし、難産のために娘を産んだ後、妻はすぐに亡くなってしまい、失意のうちに数年過ごし、行きつけの居酒屋で働いていた今の妻と出会うのであった。  再婚してからは、娘を育てるためにより一層仕事に精を出したが、結局は家庭から離れる原因となり、今まで娘との時間はほとんど無かった。挙げ句、先月になって妻が離婚を切り出したのだった。  そんな中、娘はもうすぐ18になる。その娘は何の因果か、音楽の道へと進む。高校の卒業を機に、ネットから発信した曲が大手のスカウターの目に留まったのだった。  家に帰れば妻が居る、娘が居る。そういう日常はもう来ない。  瑠璃(るり)に顔向け出来ない。  男は今向かっている先の墓地に眠る前妻の事を思い出していた。
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