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ハマナスの花
都道府県にはそれぞれ、シンボルとなる花がある。
北海道はハマナスという花がそれだ。
ハマナスは夏ごろに赤い花を咲かせるバラ科の低木で、その実はローズヒップとして名高い。
ローズヒップの甘酸っぱい味は恋に似ているーー そう思うのは、私だけではあるまい。
皆様にも、紅茶や砂糖漬けなど、ぜひ一度ご賞味いただきたいものだ。
さて、そのハマナスだが、稀に白い花を咲かせることがあるのをご存知だろうか。
理由は単純、もともとこの花は白かったからだ。
あることを機に、ハマナスは決まって赤い花を咲かせるようになったのだが、今でもときどきおっちょこちょいな花が、つい昔を思い出して間違って白い花を咲かせてしまうことがある。
人生を植物学者として生きてきた私も、今ではすっかり年老いてしまった。そろそろ気力と体力に限界を迎えつつある。
私は生涯に渡り、ハマナスが白い花を咲かせる理由を科学的に究明してきた。ハマナスにまつわる長い長いストーリーを、ずっと書き続けてきたような人生だ。しかし、それももう筆を置かねばならない時が来た。
結論から言うと、私はハマナスが白く開花する科学的理由を解明することはできなかった。
しかし、なにも世の中は科学だけで成り立っているわけではない。
私はなにがなんでも、このストーリーの最終章だけは書き上げる所存だ。
これは、私が現地調査で知り合った、とある民族の長から聞いた話だ。
ハマナスが赤い花を咲かせるようになったきっかけを、昔むかしの悲しい恋の物語を、私の執筆し続けてきた長いストーリーの最終章に変えて、ここに記しておこうと思う。
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