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薄暗い路地裏で対峙する男と女。
「ついてかなくて良かったのかい?それともタクシーに誰か待機させてんのか?」
「生憎と僕ひとりさ。それに言っただろう?僕は少し君に聞きたいことがあるって」
男が煙草に火をつけて紫煙を吐き出す。
「深夜にワンオペたあご苦労さんなこった。…お前、庶務課の“強欲”だな」
女は楽しそうな声で答える。
「ご名答。僕の符丁をご存知とはやはりただのゴロツキではないね?」
「まあ仕事柄な」
男はつまらなそうな声で返す。
「治安部ならまだしも総務部が不動産屋と暴力団のいざこざに首を突っ込んでくるとは予想外だったが」
「どうも総務部長が山瀬社長と懇意だそうでね。僕にも事情があったし」
「ほう?アンタもこの件に関係あるってのかい」
種は順調に撒いてある。あとはくだらない話でもいい、暫くこの女をここへ引き付けておきたい。
「いや?ちょっとむこあつめの課金で給料が厳しくて」
「…む、むこ…なんつった?」
「む・こ・あ・つ・め。だ」
女は一文字ずつ区切って言い含めるように発するとそこから一気に捲し立てる。
「石油王になってイケメン婿を収集するのが目的となる女性向けアプリゲームだ集めた婿は箱庭に放って彼らがイチャつく様をのんびりと鑑賞できる婿のバリエーションもさることながら箱庭デザインの自由度も高く界隈ではちょっとしたブームも起きていてなゲーム性自体は別に高くもなんともないユルゲーなのでストレスもなく疲れた時や気が滅入った時など推し婿をぼんやり眺めているだけで癒しになる至高のゲームなのだが如何せんガチャが渋くて更新頻度も高いので予算の確保に苦心している」
ふう、と一息ついて続けた。
「というわけで残業代を稼ぎたいんだ。この時間だと深夜割増もつくし明日は有給を取らせて貰えることになっている。お昼の電話当番だったが部長経由の仕事で課長の許可も取っているので僕は知らない。誰かが代わりにやるだろ」
「そ、そうか。そいつぁ良かった…な」
正直、聞かなければよかったと思った。
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