エピローグ

1/4
30人が本棚に入れています
本棚に追加
/49ページ

エピローグ

ずり ……ずり、ぬちゃ ずり 太陽が西に傾いてゆく。 辺りの空気が徐々に橙色に染まってゆく。 いつもの学校。 いつもの放課後。 毎日のように繰り返される変わらない日常の風景。 部活をしている生徒は各々の場所で鍛錬に精を出し、用事のない生徒はそそくさと帰路につく。 りんが転校してきたこの高校は、運動場を間に挟んで正門と玄関がある。 生徒は皆、正門への最短距離を通って帰りたがるが、さすがにサッカー部が走り回っているコートの中を突っ切ってはいけない。ゴールのギリギリ外を緩くカーブを描くように行くのがこの時間帯の最短ルートとなっていた。 今も何名もの生徒がそのルートで歩いている。 りんはといえば、その最短ルートよりも大きく弧を描き、左のブロック塀の花壇そばを1人、歩いていた。 ゴールそばの最短ルートを通らなかったのには、理由がある。玄関を出てすぐに、見つけてしまったからだ。 これが、ここを通るのを。 この間は運動場の真ん中を直進していたのだが、日によっている場所が違うそれは、ただ時間だけには正確だった。 時刻は16:09分。 だいたい16時くらいから現れるのだが、なぜこの時刻なのか、なぜこの学校の運動場なのか、何もかもわからない。 しかし、毎日この時刻この場所に、これは現れていた。 ずり、ず、ずりゃ ぬちゃ ず、ず りんの目の前を、赤黒い人間の形をしたものが這いつくばって前に進んでいた。いわゆる匍匐前進に見える。 赤黒く見えるのは皮膚が爛れているからだった。火傷だろうか。それは所々黒く炭化しているように見え、筋肉が露出し、めくれた皮膚がぶら下がり、運動場の土に奇妙な線をつけている。 そう、線を、つけていた。 皆には見えないはずだし、触れないはずだし、いるはずのない存在であるはずの、それは、土に跡をつけているのだ。 現にこの運動場のあちこちには、これの這いつくばった跡がある。大概が体育や部活動で消されてしまうのだが、それでも、人があまり来ない場所には消されずに残っていた。 りんが歩いている、正にこの場所もそうだ。門から塀横を通ると、その先には非常階段しかない。あまり常用するルートではないのだ。 りんはゆっくりと、それの後ろを歩いた。 近づきすぎないように、追い越してしまわないように。 眼鏡、してるのにな。 りんはぼんやりとそう思った。
/49ページ

最初のコメントを投稿しよう!