桜のバス停

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【三】  案の定、授業の開始は五月七日まで伸びた。  それでも、一部活動だけはその前から行うらしい。テストから一週間後くらいに、もう一度大学に向かうことになった。もちろん活動が始まるのは喜ばしいが、本当は早く授業を受けたい。五月七日とは言っているものの、どうせまた伸びるのだろう――。  暗いことばかり考えても気が滅入るだけなので、スマホをいじりだした。  小さな小屋の前にある「虹岡」というバス停の前を過ぎると、アナウンスがあった。 「次は、桜文でございます。お降りの方は、お知らせください――」  中途半端な森の中にある「桜文」で「お降りの方」などいない。乗ってくる人もいないだろう。ただぼぅっとスマホの画面を見ていた。  しばらくはそうして目線を落していたが、バスが揺れた拍子になんとなく顔をあげ、そしてハッとした。  窓に、顔をはりつけるようにして外の景色を見た。
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