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人気のない山道。その両サイドが、淡い桃色に溢れていたのだ。透き通るような柔らかな花びらが、風にのって水色の空を舞う。
桜である。テストのときはまだ花が咲いていなかったから気づかなかっただけで、この山道にある木は桜だったのだ。春に染まった景色を見て、ここに「桜文」という名がついている理由を知った。
そして、思った。
うす暗い山道である「桜文」にも、美しい花が咲いた――美しい花が咲くのを待ちわびていることに、自分が気づいていないだけだった。
これからの学校生活にも、不安だらけのこの世界にも、きっとまだ見えない希望のつぼみが花開くのを待っている。
北国の春は、ゆっくりとやって来る――。
窓の外に桜のバス停を眺めながら、ガラスに映る自分の顔が心からほほ笑んでいることに気づいた、そんな春の午後の話。
《完》
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