12、 ヴァージル 4

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 その後は、ただひたすらその快楽を二人で追っていく事に夢中になっていた。  お互い言葉はなく、時々、コウの震える息遣いが微かに聞こえる以外は、肉のぶつかる音と水の混じり合う音が微かに聞こえるだけだった。  何度コウの内で果てても、お互いの中に回る魔力が濃厚になっても、一向に終わりがなかったし、見えなかった。  時間も思考も感じられなくなって、ただただお互いの魔力を肉体にぶつけていく。  なにもかも忘れ、ただひたすら相手を求め、癒し、包み込む。  こんな交わりは初めてだった。  コウの震えるような優しい魔力が、ずっとワシを包んでいた。  ふと意識が逸れた時、薄暗い部屋が目に入ってきた。  コウが目覚めた時は、昼前だったはずだから、かなりの時間が経っていたようだ。だが、魔族は夜目がきくせいか、暗闇の中ではあっても、うつ伏せにベッドに横たわるコウのしっとり汗ばんだ背中がよく見えていた。  コウの温かい内にいる自身を、ゆっくりと狭い入口からぎりぎりまで引き抜き、再び最奥に打ち付けるように一気に押し入れば、コウの背が大きくしなった。無意識に逃げようとする細い腰を引き寄せ、温かな内を味わうようにゆっくり抽挿する。 「……あっ……っ……んっ」  軽く達したのか、(しな)う背中が震え、窪んだ背骨に汗が伝って流れていった。それをゆっくり舐め取った時に、そこに黒子(ほくろ)がある事に気が付いた。背中の真ん中あたりに、小さな黒子が規則正しく横に三つ並んでいる。 (こんなところに黒子があったとは……。何度もコウと交わったが、気が付かなかったな)  そう思うと、何故だかこの黒子が愛しく感じられた。一度軽く口付けて、ゆっくりと三つの黒子を、皮膚からこそげ落とす勢いで舐めずると、コウの体が激しく震えた。 「…んぁっ……あぁっ……ッ!」  コウの欲望が弾け痙攣すると、内壁が急速に収縮しワシの欲望を締め付けた。コウから溢れた甘い魔力に導かれるように、ワシの欲望が弾けコウの最奥に飛沫を迸らせる。  コウの痺れが繋がった腰から伝わるのを感じながら、自分の全てをコウの内に残すように強く腰を打ちつけた。 「……あっ……んっ……」  甘い吐息がコウの口から洩れた。すぐに脳が痺れるような甘い魔力がコウから溢れ、ワシの全身を包み込んだ。  その瞬間、コウの深くに隠された奥が垣間見えた気がした。すぐに魔力を伸ばし()()を捕らえようとした時、コウが内壁を蠢かせワシを締め付けた。  強烈な感覚は眩暈がするほど気持ち良く、再び膨らんだ自身の欲がすぐに弾け、飛沫がコウの内奥深くまで蹂躙していった。  一瞬で快楽の波に飲み込まれてしまう。  それでも、なんとか意識を向け魔力を伸ばせば、まるで邪魔するようにコウの甘い魔力が絡みついてきた。 「……くっ」 「……はっ……っ。よそ見……すんな、よ」  コウが肩越しに振り返って笑った。その壮絶に妖艶な笑みに引き寄せられるように腕を伸ばし、コウの上半身を持ち上げ座り直す。丁度ワシが胡坐をかく上に、繋がったままのコウが腰を下ろす形になり、コウの内にいた欲望が、コウの体重でより深く、最奥にぶつかる勢いで押し入っていった。 「あぁっ……っ!」  全身を震わせ、コウが派手に達した。それまでに何度も出していたせいか、飛沫は少なかったが凄まじい魔力がコウから溢れ出し、同時にコウの感じた快楽が直接ワシの中に入ってくる。  その圧と連動するかのようにコウの内がうねり、堪らずワシ自身も弾けていた。  お互いの強烈な快楽と魔力が混ざり合う。その一瞬の融合に、掴みにかけていた()()が確かにはっきりと見えた。  そこに()ったのは、青の世界。ただただ広く広がる、果てのない空と凪いだ海。 (これは、……なんだ?)  「……じ、さん……」  掠れるようなコウの声に、すぐに意識が戻される。ワシの胸に凭れるように、力を抜いたコウがゆっくりと頭を重ねてくる。視線を下げれば、汗でしっとりした黒髪の一部が跳ねているのが見えた。  コウを抱きしめてるために使えない両腕の代わりに、唇を寄せてその跳ねを直してやる。 「くは……っ! なに、してんのさ~。ってか、やっぱ魔力回すの上手いな。じーさんは……。はぁ~、気持ち良かったわ~。うん、いい最後(思い出)になった」 「……なんだと?」 「んじゃ、お礼な。俺も気持ちいい事してやんよ」  コウが体を捻って、ワシの唇に自分の唇を合わせた。それはまるで火に触れたかと思う程に熱かった。  途端に、重なったところから魔力が入り込んでくる。  意識が持っていかれる程の、強烈に甘い魔力だった。だけど、それとは別の魔力がワシを包んでいく。それは、先ほど感じた、弱々しくて淡く儚い不思議な魔力だった。 (いつの間にこんな魔力に? 魔力の質が変わるなど、今まで聞い事はな、かっ……? なんだ……?)  膨れ上がったコウの甘い魔力がワシの全てを包み込んだ途端、意識が薄れ、ふっと視界が暗くなった。  脳が痺れる程の甘い魔力が薄くなるのを感じると、音が遮断され感覚が鈍くなっていく。慌ててコウを抱きしめる腕に力を入れると、コウが目だけで笑ったのが分かった。  遠ざかる意識の中で、小さく呟くコウの声が聞こえる。 「……じーさん、ありがと……な」   それは、今まで一度も聞いた事がない、切ない程に甘く、それでいて苦しい程に……(かな)しい声だった。  そして、これがコウとの最後の交わりになった。
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