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「ええっ、くっ、口説く⁈」
「そんなに驚くこと?」
「いや、だって、俺、生まれてこの方、女性を口説くなんてしたことがなくて……」
「あー、そういえば転生前の姿、めっちゃ陰キャっぽいもんね」
「それに、リリーナ嬢を口説く意味がわかんないんだけど? なんか意味あるわけ、それ」
「意味はあるわよ、今のあんたは、見てくれからして冴えない陰キャのおっさんじゃなくてダレスじゃん?」
彼女が言うには、リリーナ嬢が不幸にならないエンドがあるのだと。
……ただし、非公式だけど。
リリーナ嬢は悪役令嬢でありながらプレイヤーからの人気が高く、彼女が断罪されることに納得しないファンによって『リリーナ救済エンド』という二次創作が盛んに作られているのだとか。
中でも人気が高いのは地方の貧乏領主の三男であるダレスと相思相愛になり、家も爵位も、そして皇子さえも捨てて庶民落ちする『ダレスエンド』であるらしい。
「ピク○ブで検索をかけるじゃない? 皇子が改心してリリーナに謝罪する『アイリリ』が120件、セレス先生が教師という立場を利用してリリーナの無罪を証明する『セレリリ』が280件、ラインバッハ様が皇子を見限ってリリーナと国外に逃亡する『ライリリ』が320件、他はその程度なのによ、リリーナが庶民落ちしてダレスと結ばれる『リリダレ』は1200件、しかも派生が山ほどあるから、実際にはどれほどの『リリダレ』が存在しているのか知れないわけよ」
「いくら人気があったって、所詮は二次創作だろ」
「実は、公式がこの人気に乗っかって『リリーナ救済イベント』を組んだことがあるらしいのよ。実装されなかったのは大人の事情らしいんだけどね、公式にシナリオだけは存在しているのよ」
「幻のシナリオっていうわけか……」
「そ。で、そのリリーナ救済のシナリオを望むミララキファンたちの思いが、私たちをこの世界にとばしたんじゃないかな」
「そんなことが……」
「あってもおかしくないでしょ、実際に私たちはここにいるんだから」
「まあ、うん、でも、なんでそれがリリーナ嬢を口説く話になるわけ?」
「わかってないなああああああああああ!」
彼女は呆れきったように長い、長いため息をついた。
「ねえ、ちょっと頭を働かせてみようとか思わないわけ? つまり、いまからあんたがリリーナ嬢を口説いて惚れさせて、彼女を断罪から救う『リリダレルート』を実現させようってことじゃんよ」
「つまり、俺がリリーナ嬢を攻略するって話? 無理、絶対無理!」
「なんで無理なのよ、中身はともかく、面はめっちゃきれいなんだから、ちょっと口説けばリリーナたんだってメロメロになるって」
「それは妄想とご都合主義を詰め込んだ二次創作内での話でしょ、俺、基本的に口下手なんで、女性と会話するってことがすでに無理なんですってば!」
「わかった、じゃあ、こうしよう。私が『リリダレ』でよく見るパターンをいくつか教えてあげるから、あんたはその通りに動きなさい、それならできるでしょ」
「えええと……はい、そのくらいなら」
「よし決まり、じゃあ、よく聞きなさいよ」
こうしてチヒロは、俺に今からここで起きることを教えてくれた。
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