悪役令嬢を救え! ~乙女ゲーム八周目のこんどは悪役令嬢を口説いてみようと思います~

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私、チヒロ=ミズウェル! 今日からこのアイゼル学園の生徒になるの! でも、ちょっと朝の自宅に手間取っちゃって、入学式なのに遅刻しちゃいそう…… se:走る足音  衝突音 ??「いたいな、気を付けろよ」 ??「なんだ、その顔は、まさかお前、俺の顔を知らないのか?」 アインバッハ「俺はこの国の第一皇子、アインバッハだ」  ◇◇◇ と、運命の出会いを果たしたはずの『ヒロイン』は、今現在、絶賛不機嫌中であった。 「っていうかさ、人にぶつかってごめんのひとこともないなんて、人間としてどうなのよ」 すでに入学式を終えた彼女は今、日光が良く差し込む午後のカフェテラスで俺――ダレス=エーリアを相手に愚痴をつらつらと並べている最中だ。 「っていうかさあ、そもそもオレサマキャラって嫌いなのよね、私」 今、目の前にいる少女は地味だがかわいらしいチヒロ=ミズウェルの姿だ。 中身はあの空間で会った地味の具現化みたいな女性だということはわかっているが、この容姿でなら男をこき下ろすような行為も『気が強い』で済まされてしまうのだから、見た目というのは大切だなと…… かくいう俺もいまはダレスの外見なのだから、傍から見れば美男美女が優雅にティータイムを楽しんでいる『スチル絵』のようにも見えることだろう。 しかし、麗しい美少女の見た目をしたチヒロは、さっきからずっと、攻略対象キャラの一人であるアインバッハ皇子をこき下ろしているのである。 「皇子だか皇太子だか知らないけどさあ、あれ、絶対に世の中の女はみんな自分を好きになって当然と思ってるよね、マジでああいう男無理!」 「いや、でもメイン攻略対象ってやつだろ、つまり本命なにでは?」 俺の言葉を、チヒロは「ははん」と鼻先で笑った。 「そりゃあ、ミララキガチ勢の私はアインバッハルートもプレイしましたけど? でもやっぱりダメなのよね、オレサマぶってわがまま言われるとイラッとするわけよ。だから私の一押しはラインザッハさまなんだけどね」 「ラインバッハってあれだろ、アインザッハの近衛隊長」 「そう、素敵なのよ、アインザッハ皇子のクソッタレっぷりを全て受け止める器の大きさが最高! 本当は私、この世界に転生した瞬間からラインバッハさま攻略を目標に行動していたのよね」 ラインバッハ近衛隊長は、アインザッハ皇子の近辺警護のために常に皇子の近くに控えている長躯筋肉質赤髪に、鋭い目つきが凛々しい男だ。 アイゼル学園には高貴な家の子息女が多く在籍しているため、こうした警護が主とともに学生として入学してくることも少なくはない。 ラインバッハもそんな警備学生の一人なのだが、皇子の側付きを務めるだけあって剣の腕は超一流、徒手でも暴漢を叩きのめすほど強い。 さらに特筆するべきは皇子への異常なまでの忠誠心である。 これは俺の憶測だが、少し腐れた女性たちが『皇子×近衛隊長』なり『近衛隊長×皇子』なりを妄想しやすいように、敢えて忠義心篤い性格として作られているのではないだろうか。 たとえばラインバッハと皇子が親しげに並んで談笑している姿など、いかにもエロい。 皇子より背の高いラインバッハは少し身をかがめて、金髪碧眼の皇子は熱っぽい瞳でラインバッハを見上げて……乙女ゲームでいうところの『スチル絵』というものに起こしたらどれほどの女性が悶絶することだろうかという麗しい光景なのだ。 しかしその分、ラインバッハは嫉妬深い。 皇子がヒロインと親密になっていくにつれ、わざと二人の会話に割って入ったり、ヒロインに嘘の用事を言いつけて王子から遠ざけたり、むしろリリーナよりも悪役令嬢らしい振る舞いをするのである。 そんなラインバッハを攻略しようとは……この女、なかなかに…… 「何よ」 「いや、なんで攻略対象がラインバッハなのかなーって」 「そりゃあ、もしかしてこのままこの世界で暮らすことになったりしたらって考えたらさあ、ラインバッハさま安定じゃない?」 「何が安定なわけよ?」 「そりゃあ、将来? アインザッハさまは確かに皇子だしメインキャラだけど、将来を見据えてお付き合いするには、ちょっと世間知らずなのよねえ。だってヒロインのことグイグイ口説いてくるけど、あれ、平民上がりの女を城にあげたら周りから反感を買って苦労しまくるとか、絶対考えてないと思うよ」 「確かに」 「その点、ラインバッハさまは優良株っていうか、城勤めだから仕事は安定しているし、代々近衛兵長を務める武人のお家ということもあって格式は高いけどリベラルな家風のお家に育っているから性格もいいし……」 「あ、でも、皇子に首ったけじゃん、その辺で苦労しそう」 「それがね、ラインバッハ攻略ルートに入ると、あの忠心と愛情が全てヒロインに向けられるようになるのよ。つまりヒロインに首ったけの溺愛キャラになるわけ」 「つまり将来を考えた打算というわけか」 「そういういいかた、やめてくれる? ずらりと並んだキャラの中から自分好みのキャラを選び出すのって乙女ゲームの醍醐味でしょ。私は将来性も含めて、自分好みの男を選んだだけよ」 「あ、はい」 この女、なかなかにしたたかだ。 だが、このループから抜け出す作戦を立てるには、このぐらいのしたたかさは、かえって好ましい。 「で、これから俺は何をすればいいわけ?」 俺が聞くと、彼女は何も迷うことなくとんでもないことを言い出した。 「そうね、あんた、リリーナを口説いてきなさいよ」
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