1 強い女

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1 強い女

私は旅に出た。 現実逃避だ。 理由はあの人が私に放った言葉にうんざりしたからだ。 「君は強いから一人で大丈夫だろ? でもあいつには俺がいないと・・・」 今までに何度も言われた事があった。 だがまた言われた。 別れ話の最後のトドメは、このセリフばかり。 もういい加減嫌になった頃にあの人に出会ったのに。 まさか、あの人の口から最後に聞いた言葉も同じになるとは思わなかった。 よほど強い女のように見えるのだろうか? このセリフは19歳の頃には既に言われた事があった。 そして、その言葉の通り20年たった今、私は会社を立ち上げ経営者になった。 会社はもう10年目を迎えている。 確かに強かったのかもしれない。 ただでさえ起業して従業員を抱えるのは男であってもそう簡単ではない。 それを女ひとりでやってのけたのだから。 途中何回も挫折しそうな時は勿論あった。 でも、あの言葉 「君は強いから・・」 その時の悔しさをバネに踏ん張った。 そして、一年前にあの人と出会った。 あの人は私より10歳年上で、経済力も比べ物にならない位上だった。 「君はいつも頑張りすぎる」 そう言って優しく受け止めてくれていた。 その筈だった。 だがその正体はただの寂しがり屋のオヤジだった。 私より5つ年上の女とヨリを戻すのだと。 馬鹿らしい。 女が弱いなんて思っているのは男の妄想だ。 弱いフリをしている女は幾らでもいる。 女同士会えばすぐわかる。 でも男は信じて疑わない。 過去、私にこのセリフを吐いた男達は、例に漏れず皆嫁の尻にひかれている。 決まってそんな男は、女は結婚して子供を産むと強くなると言う。 違う。 はなから""のだ。 それに気がつかないなんて正直笑える。 そして今回わかった事がひとつ。 男は頼りにならない。 私の中で新たな定義が増えた。
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