2 旅

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2 旅

1ヶ月休みが取れたこのタイミングで旅に出た。 今はどこにいてもインターネット環境があれば多少の仕事はできる。 会社も部下にある程度任せれる状態になった。 こんなに長い休みを取るのは10年ぶりだった。 まず初めに上海に。 そしてその後タイ。 そしてシンガポール。 最後に憧れの地、タヒチに寄って帰国するつもりだ。 今回は一人旅。 だから自由に動けるし好きなだけ滞在しても構わない。 気ままな旅行のつもりだった。 まさかこの旅でこんな出会いがあるとは思ってもいなかった。 彼を2度見かけた。 1度目は成田から上海に向かう飛行機のチェックインカウンターで。 バッグパッカーなのか、大きなリュックをカウンターに預けていた。 そして、同じ飛行機で上海に降りたった。 彼は気が付いていないだろうが、上海の空港の入管のところでも隣り合わせの窓口になった。 そして2度目はタイの寺院で。 バンコクのチャオプラヤ川の近くのワットアルン。 『暁の寺』と呼ばれるその寺の仏塔に登ってる時にすれ違った。 彼の姿は特徴的だった。 日本人なのだろうが身長が185センチ位の長身で手足が長く髪の毛も栗毛色で、まるでモデルの様だった。恐らく20代後半。 笑うと可愛らしい顔をしていて、入管や空港のグランドホステスと話しをしている時の柔らかい雰囲気が目に留まった。 きっとモテる子なんだろうなと思った。 大きなリュックを背負って、グラサンをかけてワットアルンの仏塔の中段から周りの景色を見ていた。 私はその彼の姿に見とれた。 そして2度ある事は3度ある。 その格言はその通りだった。 ワットアルンで見かけた2日後に、バンコクのチャイニーズレストランで相席になったのだ。 私も一人。彼も一人。 まあまあ混んでいる店だったから、相席になったのだ。海外ではよくある。 私は彼が席に案内された時、思わず"あっ"と声を上げてしまった。 今日の彼はこの前見た時とはうって変わって白地に花柄のお洒落なシャツに、濃紺の麻のパンツというスタイリッシュな格好をしていた。 「よく会いますね」 彼は私の向かいに座り、そう話しかけてきた。 「えっ・・・」 「成田から上海への飛行機で。その後、2日前にワットアルンで」 「気がついてたんですね・・・」 「はい。綺麗な女性が一人だったもので・・」 そう言って柔和な笑顔で笑いかけてきた。 「お上手」 「ん?思ったことを言っただけですよ」 彼はまた笑いかけてきた。 そのタイミングで私が注文した料理が運ばれてきた。 私は海鮮あんかけ焼きそばと青菜の炒め物を頼んでいた。 その料理を見て彼が聞いてきた。 「俺、この小籠包食べたいんで少し食べてくれません?量多そうなので」 私が返事をする間もなく、店員を呼んでチャーハンとスープと小籠包を頼んでいた。 私が箸をつけれずにいるとまた笑って 「冷めないうちに食べて下さいよ。俺のことは気になさらずに」 そう言ってくる。 「あ、はい。では遠慮なく・・・お先にすみません」 ただ相席になっただけの他人なのに日本人だというだけで変な連帯感を感じていた。 私が食べる姿を正面で見ている。 「折角こうして何度も会うんで、少しお話ししません?日本語ちょうど話したかったんですよ。俺」 気持ちはわかる。 一人旅だと日本語はほぼ話さなくなる。 私は食べながら彼の話を聞いた。
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