5 接近

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5 接近

次の日の午前11時。 私は昨日の約束通りロビーでジョーを待った。 彼は昨日と同じように濃紺のパンツに昨日とは違う柄のシャツを着て現れた。 「ナツ。おはよう。お待たせ」 彼は大きな荷物をロビーでベルボーイに渡している。 「チェックインするから、ちょっと待ってて」 そう言ってカウンターへ行く。 どうやら本当にこのホテルに部屋をとったようだった。 「お待たせ。さ!今日はどこに行く?」 そう言ってサングラスをかけた。 「今日はショッピングでもいいよ。もうだいぶお寺回ったんでしょ?」 「え?ジョー君はショッピングとか楽しくないんじゃないの?」 「大丈夫。逆に女性と一緒じゃないと入りにくい店もあるじゃん?だからショッピングでも楽しいけど?」 「じゃあ、今日は暑そうだしショッピングモールでも行こっか」 そんな理由でこの日はショッピングモールに行く事になった。 バンコク市内はタクシーで移動すると渋滞にはまって時間だけ食ってしまう。だからスカイトレインと呼ばれる電車で移動する事にした。 街の中心にあるサイアムと呼ばれるあたりに行く。 ここら辺のショッピングモールは都会的でおしゃれなお店が多い。高級ブティックも入っている。そして空調もよく効いていて涼しい。 二人でぶらぶらと回ってみる。 特に欲しいものがあったわけではないが、日本ではあまり見かけないカラフルな色のシャツやネクタイを見て回る。 彼はまたシャツを見ている。 「シャツが好きなの?」 「うーん。日本だと、こういうカラフルなシャツとか、花柄の刺繍入ってるシャツとか売ってないでしょ?だから、海外に来たときにちょこちょこ買っちゃうんだよねー」 そう言って、シャツを見ている。 「これとかどう?似合ってる?」 私に感想を求めてきた。 「可愛いと思うよ。でも、私はこっちの柄の方が好きかな」 「そっちかー。そっちと悩んだよねー」 ブツブツ言いながら両方を手にとって見比べている。 「じゃあ、こっち!ナツがいいって言った方!」 そう言って会計をしに行った。 意外とあっさり決めるんだな・・・と思ってその様子を見る。 男の人と買い物をしたのは大分久しぶりだ。 なんだか異国でデートをしているみたいで私は少し気持ちが高揚した。 その後、昼2時を過ぎた頃カフェに入る。 二人ともコーヒー派で趣味があった。 海外独特の大きなサイズのドーナツを二人でシェアする。 こう言う時に二人だと都合がいい。 「ナツは何か買いたいものないの?」 そう聞かれた。 「うーん。あ!タイの有名なシルク屋さん。ネットで見たんだけどそこ行きたいかな」 「あー、ジムトンプソン!この建物にあったと思う!さっき見かけたから。じゃあ後でそこ行こ」 そう言って携帯でこのショッピングモールの地図を探している。 「この隣の塔に入ってるねー。もう少しゆっくりしたらそこ行こ。で、そのあとはマッサージ行かない?」 その提案に乗る事にした。 タイシルクで有名なジムトンプソンに入る。 店内は綺麗な色の布で溢れている。 綺麗なスカーフやカフタンドレスと呼ばれるどんな体型でも着れるポンチョみたいなトップスが並んでいた。 「ナツはオレンジが似合いそう」 そう言いながら、オレンジ色のスカーフを手に取って私の首元に持ってくる。 「ほら!絶対にあう!」 ジョーは楽しそうだ。 「ジョー。こっちにはネクタイとかもあるよ」 男性用の商品が置いてある棚を指さす。 「いいねー。暫くネクタイはいらないだろうけど、一本こういうの持っててもいいかも・・・」 鏡に自分を映して選んでいる。 私はさっきジョーが手に取った大判のスカーフが気に入っていた。 それを一枚買う。 まあまあの値段がする。 でもタイでジョーと過ごした思い出として買った。 ジョーはジョーでネクタイを一本買ったようだ。 綺麗なブルーベースのネクタイを選んだようだった。 その後、ジョーおすすめのマッサージ屋に向かう。 タイで既に一週間ほど過ごしているようで、もう道は覚えている様子だ。 メインストリートから路地を入ったところのマッサージ屋に入っていく。 二人同じ部屋に通され、フットマッサージとタイ古式マッサージを2時間コースでお願いする。 楽な格好に着替え、二人で並んで施術を待つ。 店員が 「wife? Husband?」 そう下手な英語で聞いてきた。 私は首を振ったのだが、ジョーは 「yes」 と答えていた。 顔を見合わせた。 ジョーがウインクをして見せた。 その日の夜。ホテルに帰ってそれぞれの部屋に帰った。 夕飯はさっき、ホテルに帰る前にタイレストランで食べてきた。 今日は一日外にいた。だから疲れていた。 夜23時に部屋のドアをノックする音が聞こえる。 「Who?」 すぐに 「ジョーだよ」 と答えが返ってきた。 ドアを開ける。 「さっき別れる時に渡すの忘れてた。昼の買い物のシルク。俺が持ってたから」 そうだった。荷物を持ってくれてたのだった。 「ありがと・・・」 そう言った時にはもう既にジョーはドアから体を部屋に滑り込ませていた。 腕を掴まれる。 そしてそのまま壁に追いやられ首筋にキスをされた。 「昨日はしなかったけど、今日はキスしてもいい?」 耳元で囁く。 私の答えを待たずに強引に口を塞いできた。 抵抗しようにも体格が違いすぎる。 もう旅先の事だし、正直昨日から一緒にいて魅力的に感じていた。 私は抗う事をやめた。 そのままジョーの舌が唇の間から侵入してくる。 それに応えるとその後はもう雪崩のように止まらなかった。 ジョーは優しく女を抱く。 私は溶けそうだった。 自分の中の女を久しぶりに実感した。
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