20人が本棚に入れています
本棚に追加
6 もう少し
それからの4日間はあっという間に過ぎていった。
一人では入りにくいレストランにも気兼ねなく入れる。
タイで見たかったニューハーフのショーも見に行けた。
彼はバックパッカーのつもりだっただろうから、お金を使わしてしまう事だけ気が引けたが、断固として割り勘でと言う。
まあ私が会社を経営していることは言ってないのだから、こちらに気を遣ってくれていたのかもしれない。だが年下の彼なりに考えてくれているのだろうと思うと可愛かった。
一人で過ごすよりも二人で過ごすと数倍楽しい。
そして毎晩一緒に寝る。
同じホテルに部屋を取ったのに結局彼は一度も自分のホテルの部屋で寝ることはなかった。
海外一人旅の寂しさは消え去っていた。
「ナツ、約束の5日が過ぎたけど明日はどうするの?」
不意にジョーに聞かれた。
「どうしよっかな・・・。ジョーはどうしたい?」
「うーん。俺はまだナツと過ごしたい」
ベッドの中で真っ直ぐな目でこちらを見る。
「でもジョーはバックパッカーで色んな国見てまわりたいんじゃないの?」
「それはそうだけど・・・。ナツは次、どこに行く予定だっけ?」
「私は次はシンガポールかなー」
「じゃあ俺もシンガポール行く。だめ?一緒に行っちゃ・・・?」
「いいけど・・・大丈夫なの?色々・・・」
「大丈夫。飛行機とかのチケットはオープンになってるし、追加払えばどうにでもなるし。ホテルとかも俺は取ってないから」
「わかった。じゃあシンガポールは一緒のホテルの部屋にしよっか。このホテルの部屋とったのに、ジョーは全くその部屋使ってないでしょ?勿体無いから・・」
「いいの?同じ部屋でも・・・」
「今更?ふふふ。もう5日もこうして抱き合って寝てるのに?」
「そうだね。じゃあそうする」
そう言ってジョーはまた私の体を抱きしめてキスをする。
この感覚がずっと続けばいいと思ってしまう自分がいた。
次の日。
二人でシンガポールの航空券とホテルを手配した。
ホテルは女の私がいるから、まあまあなシティーホテル。
ベッドが広いことが条件だった。
そのまま二人でシンガポールへ。
計10日間の滞在予定になった。またその後はその時どうするかジョーは決めると言っていた。
10日間の内、1日だけジョーは知り合いに会うと言って別行動をした。
それ以外は二人でずっと一緒にいた。
シンガポールでの滞在9日目。
私に会社から連絡が入った。
取引先の一社の社長が急に退任することになり、その引き継ぎ云々で帰ってきて欲しいと。
流石に三週間も旅に出ているのだ。そろそろ会社の事が気になりだしていた。
今回はタヒチは諦めた方が良さそうだ。
行ってもゆっくりはできなさそうだし。
日本へ帰る時が来たのかもしれないと思った。
ジョーに帰国することを伝える。
ジョーはそのままもう少し放浪してから帰国することを選んだ。
シンガポールでの最後の夜。
二人で少し良いバーに行った。
シンガポールの夜景が綺麗に一望できる。
「ナツ。この半月ありがとう。楽しかった」
ジョーがそう言って、私に小さな箱を差し出した。
「これ、記念のプレゼント」
「え?何の記念なの?」
「ナツと俺が出会った記念」
その箱を開けてみる。
中には小さな石のトップがついたネックレスが入っていた。
「え・・・これ・・・良いの?」
気軽にもらえる値段なのかわからなかった。
「うん。大したものじゃないから、安心して。ナツに似合いそうだと思って」
「ありがとう・・・。私から何もお返しない・・・」
「お返しなんていらないよー。この半月が楽しかったから」
そう言って優しく笑いかけてくれる。
ジョーと別れることが寂しくなっていた。
日本に帰る日。
私とジョーは特別日本での連絡先を交換することはしなかった。
旅先でのひとときの情事であり、それぞれが何かを忘れたくて旅に出ている。
だからまだ旅を続けるジョーには不要のもののように思えたのだ。
ホテルをチェックアウトし、二人で空港へ向かう。
私は日本へ帰国するがジョーはまた違う国へ飛び立つ。
最後の別れの時、キスをした。
「半月の間、ありがとう。また縁があったら会いましょう」
そう言ってジョーと別れたのだった。
最初のコメントを投稿しよう!