1人が本棚に入れています
本棚に追加
永らえて けさぞ嬉しき 老いの波
八千代をかけて 君に仕へむ
残念ながら上皇の意に叶う出来ではなかった。それでも、そのまま袈裟に刺繍させようと思っていた。しかし、結果としては、勝手に改変してしまった。
「私にとって歌は全て。私の歌は私の魂そのもの。それなのに院よ、あなたはそれを傷つけた」
当時、古参の女官で刺繍の責任者だった右京大夫が、宮内卿の歌に問題があると進言してきた。曰く、祝いの下賜品なのだから上皇目線の歌でなければならないのに、宮内卿の歌は釈阿目線になっている、というものだった。
「それは、お前が悪いのだ。お前が朕の意図を履き違えたのが、そもそもの誤りだったのだ」
だから、歌を改変した。
永らえて けさや嬉しき 老いの波
八千代をかけて 君に仕へよ
「ならば、私に直せと命じればよかったのだ。なぜ、私に断りもなく書き変えたのか」
それは宮内卿よ、お前に失望したからだ。
後鳥羽上皇は心の内で思ったが、それを口に出して言うことはなかった。
「院よ。私はあなたに見出だされて、この世に希望を得た。それなのに、あなたは私の信頼と忠誠心を裏切った。私があの時、どれほどの絶望感に苛まれたか、あなたはご存知か」
後鳥羽上皇は苦しさに耐えるように歯を食い縛り、一言洩らした。
「知らぬ」
それを聞いた化物は、爪で上皇の腹を引き裂き、嘴で臓物を引き出した。
最初のコメントを投稿しよう!