天意

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 後鳥羽上皇は、薄れ行く意識の中で、不思議な安堵を感じていた。化物の腕に抱かれているのに、伝わってくるのは、紛れもなく人肌のぬくもりだった。もうすぐ訪れるであろう死を前にして、不安も恐怖も感じない。まるで真綿にくるまれているかのように、心は穏やかだった。  幼い子供のような笑みを浮かべると、上皇は意識を失った。 「許すはずがない。だが……」  化物が呟いた。  上皇の身体が化物の腕から(こぼ)れ、鈍い音を立てて地面に落ちた。  化物は、静かに立ち上がり、大きく翼を広げた。ゆっくりと動き出した羽ばたきは、次第に力強さを増していき、化物の身体が宙に浮いた。そして上皇の身体を脚で掴むと、見上げた月を目指して舞い上がった。  化物はそこから南に進路をとり、海上へ出た。波は穏やかなのか、聞こえるのは風の音ばかりだった。 「我が名を覚えていたことに免じて、私はお前を殺しはしない」  化物は上皇にそう告げた。すでに意識のない上皇から返事はない。構わず化物は言葉を続けた。それは呪いの言葉でもあった。
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