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後鳥羽上皇は、左の肩から地面に叩きつけられた。肩が砕けたのではないかと思うほどの激痛が、今起こっている事が現実であると知らしめた。呻きながらも半身を起こした上皇は、周囲を窺った。
月明かりに照らされて浮かび上がったのは、見慣れた黒木御所の庭。雪こそないが、冬の冷気を隠岐島の浜風がさらに凍てつかせている。
ほどなく、体が震えて歯がガチガチと音をたて始めた。それは寒気のせいばかりではなく、虚空に浮かぶ化物の姿を認めたせいでもある。
丈余(三メートル以上)はあろうかという大きな翼を羽ばたかせながら、その化物はゆっくりと地上に降りてきた。人間に似た身体に僧衣を纏っている。翼は大きく広げた腕の下から生えているようだ。足先には鋭く長い爪が垂れ下がっているのが分かる。そして頭部は、明らかに人間ではなく、猛禽類を思わせる鳥のものだった。
音もなく地上に降り立った鳥頭人身の化物に向かって、上皇は震える声で尋ねた。
「お前は、鳥か、人か」
「我は鳥にあらず、人にもあらず。ただ汝に怨みを抱く者なり」
「怨みとは何だ。お前は誰だ?」
「我が何者か、知っているはずだ。尊成よ」
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