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袈裟
「知らぬ。そもそも尼僧などに怨まれる覚えはない。例え怨みがあったとて、朕にこのような真似をして、許されると思っているのか」
後鳥羽上皇は、鳥頭人身の化物を非難しつつも、その声は微かに震えていた。それは恐怖ばかりのせいではない。怒りを含んだ震えでもあった。
僅か四歳で踐祚した天皇在位中は、祖父の後白河法皇も健在で、全くお飾りの君主に過ぎなかったが、十九歳で上皇となってからは文字通り帝王として君臨した。鎌倉幕府の統治下とはいえ、財力では彼らを凌駕し、昔日の権威も回復しつつあった。二十年余りも権力の座にあったのだから、自分に怨恨を抱く者がいても不思議はない。ましてや倒幕の挙兵に失敗したことで、無駄に命を落とした者も少なくないだろう。
しかし、その怨恨を晴らすとなると話は別である。帝王に報いを受けさせようとは、言語道断、不敬不遜の極みではないか。
「人外の化物であっても、朕に対する無礼な振る舞いは許されぬ。身の程を弁えよ」
「我に向かって身の程とは、笑止千万」
化物は一瞬で後鳥羽上皇に迫り、鋭い嘴を彼の肩に突き刺した。
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