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化物は、悲鳴を上げてうずくまった後鳥羽上皇の背中へ、さらに嘴を突き立てた。そして、激痛に唸りながら身を捩って逃れようとするのを、許さないとばかりに追い回す。
月明かりに照らされた庭で、転げ回る後鳥羽上皇を執拗に追いかけ、餌を啄むように、背中といわず脚、腰、腕、肩、胸、と至るところに繰り返し繰り返し嘴を突き立てる。
後鳥羽上皇の衣には、みるみるうちに、どす黒い染みが広がっていった。
「分かった、分かった」耐えかねた後鳥羽上皇が悲痛な声で訴えた。「分かったから、もう止めてくれ」
「分かったとは、何が分かったのか?」
「朕が悪かった。謝る」
「何を謝るのだ?」
後鳥羽上皇は沈黙した。本当は何も分かっていないからだ。化物の眼が冷たく輝くのを見て、上皇の呼吸は次第に粗くなり、胸が波打つように激しく上下を始めた。
「何が分かったのか、答えてみよ」
化物の嘴が再び上皇の身体を抉り始めた。
「許してくれ」後鳥羽上皇は冷たい土の上で、血潮と肉片を撒き散らしながら、のたうち回った。「もう止めてくれ」
だがその願いは聞き届けられず、化物は上皇の身体を啄むのを止めない。
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