欠字

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「まさかお前は……宮内卿なのか?」  化物の眼が青白く光った。僅かにうなずいたようにも見えた。 「やはり、お前は宮内卿なのだな」 「いかにも。我は人間であった頃、そのように呼ばれていた」  化物は自分が宮内卿であると認めると、上皇の腹を踏みつけた。 「なぜだ?」  上皇は息が詰まる苦しさに耐えながら、化物に尋ねた。なぜ自分を怨むのか、と。 「怨まれる覚えがないとでも言うのか」 「ない」上皇は首を横に振って否定した。「もしも、この袈裟の刺繍について怨んでいるのなら、それはお門違いというものだ」  その言葉を聞いて、化物の眼に明らかな怒りの色が差した。上皇の腹を踏む足に力を込め、鋭い爪先で彼の腹の肉を鷲掴みにした。  後鳥羽上皇は苦しみと痛みに呻きながらも、化物をなじった。 「お前を取り立ててやった恩を忘れたか」  必死に振り絞った上皇の叫びに、化物は踏みつける足の力を僅かに緩めた。 「恩義については忘れてはいない」  化物は穏やかな声音で語り出した。
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