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ひとまず親指ぐらいのサイズで、どのように行動ができるのか想像すらできなかったが、そう遠くには行けないだろう。と、憶測ではあるが、確信めいたものもある。
そもそも家の中にいるんじゃないかと思い、家中をくまなく探すも全く見当たらない。どこへ行ってしまったんだろう。
*
親指を失った今は、勇気を奮っても車の運転はできない。慣れればいいんだろうが…。
ただ、今は彼女がいないので、車に乗る機会が減っていたのはもっけの幸いだった。
通勤時や休憩時、スーツの後ろポケットから、スマフォとか定期券を取り出すときに、親指があるものと勘違いして取り損ねては地面に落としてしまう失態が、毎日生えてくるヒゲを剃るのと同じように、幾度となく繰り返された。その度に、私は照れ笑いを浮かべた。
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