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LINEの入力で、風を切るようなヴンというタップ音が、なにか電子機器の存在感を強めて、威丈高に君臨しているさまを想像すると、少しの苛立ちが募った。
―存在の圧迫と恐怖心―
この言葉がどう親指とつながりを持つのか、見当がつかなかったが、親指の帰還を待ち焦がれる思いは強まるばかりだった。
たぶん、文明の機器を今まで使いこなせていた私は、身体のひとつの欠如でも、こうも現代文明から割を食うものだということが分かって、右往左往してしまい、自らの情けなさに苛立ったのが真理なのだろう。
だから親指よ、早く帰ってきてくれ。
そして、今月末になった。
LINEのピコーンという通知音が鳴ると、『あと、10分で着きます』との連絡だった。
やっと親指が帰ってくる。
もう夜もかなり更けていて、夜道は大丈夫かと心配したが、10分と経たないうちに、家のチャイムがピンポーンと鳴る。
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