その才能が花開くとき

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見つけたぞ…………。 いいな、凄くいい。そそる…………。 これ以上ないぐらいだ。 今までで最高だな。 (はぁ~。ふぅー) 思わず興奮してくる心を落ち着けながら、 呼吸も整えた。 僕の前方には、人目を引く、物凄い美女がいる。 そんな彼女の凡そ3メートル後方を歩く僕。 (ああ、なんて、素晴らしい華なんだ) 後ろ姿をみただけでも、美しい人だというのがわかる。 それ程の圧倒的な美。モデルなど美の本職の人だろうか。 かれこれ、この位置関係になってから20分は経っただろうか。 彼女が歩道を渡る時に、二度ほど目も合っている。 (ふふふ。きっと何も思わないのだろう) しかし、彼女は特に気にした様子もなく、 ペースも変わりなく歩き続けている。 (いや、思ったのかも知れないけど、直ぐに忘れるのだ) 正直、始めて自分のこの能力に気づいた時は戸惑った。 果たしてこの『力』を開花させていいモノかと。 しかし、今では良かったと心から思う。 人の人生など短いのだ。迷っている時間が惜しい。 今では何故もっと早く、動き出さなかったのかとすら思う。 その僕の『力』とはストーキングの才能だ。 元々、下でも上でもない顔に、 筋肉質でも、瘦せ型でもない体躯。 その他諸々の、全くと言っていいほど目立たない、外見的特徴。 その全てが、僕の『力』を後押ししていた。 成長させていた。 僕が近くにいても、ほとんどの人が気にも留めない。 それは目立つような美しい容姿を持つ人程にだ。 きっと、ずっと人から注目されたり、 人に見られる人生を送って来てのだろう。 だから、こんな何の特徴もないモブ男に見られても、 何も感じないかも知れない。 そして、そんな何もない僕が、折角この『力』を持って生まれたのだ。 それを使わないでどうするのだ。 彼女が持っている美と同じだろう。 いや、こんな風に生まれて来たからこそ、 培われ、備わったのかも知れない。 まぁ、卵が先か鶏が先かなどどうでもいい事だ。 またしても安全確認をする彼女と目が合った、 そして、僕はそれに笑顔で応じる。 (ああ、美しい。本当に) そして、彼女も笑顔で返してくれる。 たまたま同じ方角を進んでいるだけだと思っているらしい。 (ああ、この瞬間がたまらない) 人は面白い。 肉食獣にも、草食獣にも思えない相手には、 そもそもの危機感痴センサーは反応出来ないようなのだ。 勿論、僕も折角の美しい花を摘むような、 そんな恥知らずな真似はしない。 美しいものは、ただ眺めているだけで心は満たされるし、 それで十分に満足できる。 …………今は。 僕がもし、薄汚れた欲望に支配され、それを実行した時。 相手はどんな反応をするのだろうか。 それを考えないでもない。 しかし、こんなにも近くで美しいものを味わえるのだ。 こんな『力』を持つことが出来たのだ。 使えなくなるのは余りに惜しい。 たった刹那の衝動的な欲望の代償に、 この素晴らしい日々が、灰色の壁を眺める日々に代わるなど、 僕に耐えられるわけがない。 すでに花開いている、この『力』。 でも、この『力』にはまだまだ続きがありそうなのだ。 いや、もう一つ蕾があるのを感じる。 (そして、この葛藤もたまらない。  ああ、世界は何て美しいもので溢れているのだろう) そして僕は、新に見つけた綺麗な人の後ろにそっとついた。
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