【番外編②】秋永の幸せ

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ーー嘘だろ。  人の流れに身を任せるように、こちらを向いて立ち止まるナツコの姿があった。動揺で後退(あとずさ)りしかける秋永に駆け寄るでもなく、彼女は深く頭を下げる。 ーーやめてくれ。謝るのは、俺の方だ。  俺が、勝手な思い上がりで君の人生を狂わせた。もう一度目が合ってしまう前に、消えてしまわなければ……。  本当は、過ちを犯しかけたあの時。  身を引きちぎられる思いで、君から離れたんだ。  友人でも恋人でも夫婦でもないけれど。  愛したつもりだったんだ、俺なりに。  幸せにしたかったんだ、君を。  初めて見かけた時の、リクルートスーツ姿の素朴な後ろ姿のナツコを反芻しながら秋永は回れ右をし、足早に立ち去った。 「好みだったからに、決まってるだろ……」 「パパ、たばこ買えた?」  つぶらな瞳を瞬かせながら、一人息子のマモルが尋ねた。 「いや……売り切れてた」  下手な嘘にも、純粋な子どもは「ガッカリだねぇ」と同情してくれる。「禁煙しましょうよ、もう若くはないんだから」とは、妻の言葉。  妻には、感謝しかない。
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