【番外編①】シンヤの幸せ

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 スタイリストの用意したブランドスーツを身にまとい、飄々(ひょうひょう)と原稿を読む。その姿は、居酒屋でイッキを(あお)っていた下世話な男と同一人物と思えない変貌ぶりだと……よくも悪くも、多方面から評価が集まった。  バラエティ色の強かった大橋シンヤは、インテリ・キャスターへの転身を図る計画に見事に成功したのだ。 ……ただし、放送されるのは一部地域限定、なのだけれど。 『深夜のエッチなお兄さん』から『夕方のダンディな紳士」へ。 「ローカルのスター、ここに極まれり……だな」  もちろん、シンヤは幸せだった。 *  自身がキャスターを務める番組進行の途中で、偶然にもナツコの姿を見かけた。デパ地下の買い物事情を生放送中、リポーターが一般客へインタビューを遂行する背後に、彼女は存在した。エプロン姿で総菜を売る美しい横顔が、画面の端に映り込んだのだ。  夢中で接客をしている彼女には番組クルーなど当然目に入っていなかったし、視聴者からも、ナツコの姿が放送されたことを指摘する声は特に上がらなかった。
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