15人が本棚に入れています
本棚に追加
/111ページ
会うたびに、落ち着かない気持ちにさせられる。
ーーアンバランスな女。
秋永がナツコに初めて抱いた印象は、日増しに強くなる。
「モデル、やらない?」
「え、私、ですか?」
「そう、私」
素顔に近い薄化粧に、濃紺のリクルートスーツ。地味な装いでも思わず声をかけてしまったのは、手足の長さや頭身数が完璧だったせいだ。理想的なスタイルを生まれもっているにも拘わらず、己に自身がなく控えめで、常にオドオドと周りを慮って暮らしている女。
それが、森野ナツコだ。
最後まで本人には明かさなかったけれど、秋永が道行く素人をスカウトしたのは、ナツコが初めてだった。
『モデル、やらない?』
ーー素人以下の声かけじゃないか。
こんな胡散臭いスカウトを自分が受けたなら、秒で逃げたに違いない。それでも、ナツコは律儀に答えてくれた。
「就活中なんです。全然、内定が貰えなくて……」
しめた、と思った。まだ、誰の手垢もついてないなら、話は早い。
「困ってるんだ。君、スタイルいいし……助けてくれない?』」
そして、秋永の思惑通り。ナツコは落ちた。
最初のコメントを投稿しよう!