【番外編②】秋永の幸せ

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『人たらし』である自覚が、子どもの頃から秋永にはあった。例えば、自分と同じだけのスキルを持った人間が数人集まったなら、周囲の大半は、彼を贔屓(ひいき)にした。 「こんな声をかければ、喜んでくれるだろう」 「こういう振る舞いをすれば、気持ち良くなってくれるに違いない」  相手が求めている言葉や行動を瞬時に選び与えることのできる能力を、生まれながらに持ち合わせていたのだろう。そして予想通り、秋永が飴とムチを使い分けるほどに、ナツコは食らいつく性分だった。  彼女が自分に少しの想いを寄せているであろうことも、感じ取れてはいた。その気持ちを利用できないこともなかったけれど、 「二人きりなんです、母と」  滅多に己を語らないナツコが自身の家庭環境に触れたとき、少しの罪悪感が秋永の中に芽生えた。なぜなら、秋永自身が、母一人子一人の片親育ちだったからだ。  露出の多い仕事を引き受ければ、それなりにまとまった金は簡単に手に入る。けれど、ナツコの想いと環境を知ったなら尚のこと、健全な方法で日の目を見させてやりたい。
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