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「大橋シンヤを連れこんでるんの?」
嫉妬などではなく、気づいた事実を反射的に確認しただけだった。矢的をパトロンにつけるくらい強かになれたのだ、それくらいのことで驚きはしない。それなのに、取り乱したナツコから「何で」と詰め寄られた秋永は、呪術にはまってしまったかのように応えてしまった。
「好みだったからに決まってるだろ」
どう振る舞えば相手がか喜ぶのかは分かっている。乱暴に、よりサディスティックに。押さえきれない衝動をぶつけるように抱いたなら、ナツコは満足したに違いない。けれど……。
「帰るよ」
唇を奪うだけに止めて去ろうとした時のナツコを、秋永は忘れることができない。怯えたような、この世の終わりのような、苦悶の表情。外見はサラブレッドの競走馬のように美しくとも、本体は弱々しい小動物だったのだと……改めて正体を晒した瞬間だった。
ーー何と、罪なことをしてしまったのだろう。
そして贖罪の間もなく、制裁が自分へと返ってきた。
「これ、秋永君のだよね」
矢的に呼び出され、失くしたと思っていたエンゲージリングを差し出された。
「どこで……」
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