15人が本棚に入れています
本棚に追加
折しも、ローカルメディアを席巻していた【大橋シンヤ】が、新しく深夜番組をスタートさせるという噂が耳に入ってきた。『共に盛り上げるためのアシスタントを募集している』という情報も、公式発表前に得ることができた。
『私を番組で使ってください』
大胆にも、大橋シンヤの所属する事務所宛に懇願の手紙を書いた。目的もなく通っていた大学を辞めてまで、ハルカは【大橋シンヤ】というカリスマ(ローカル限定)に着いていこうと決めたのだ。
お金をかけ、退路を断ち、歯を食いしばってハルカが手に入れてきたものを……。
━━何の労力も差し出さず。あの女は、かっさらっていく。
『いい年をして、純粋なんですね。ナツコさん』
そんな嫌味のひとつも言いたくなるのは、当然なのだ。自身にそう言い聞かせ、ハルカは突き進む……はずだった。
シンヤが女を道具のように扱っていたのと同様に、ハルカとて【大橋シンヤ】を生き抜くための手段として見ていたのだ。
『恋愛とか、愛憎とか、そういうんじゃないの。ビジネスよ』
ナツコに告げたセリフは紛れもなく本心だった、はず……だけれど。
━━自分に夢中だったはずの男が離れていくことは、とてつもない屈辱であり……寂しい。
『座んなさいよ、私のポジションに』
ナツコに告げた最後の捨てセリフ。
あれは、ローカルという主戦場を奪われたハルカの、完全なる敗北宣言だった。
最初のコメントを投稿しよう!