【最終章】ナツコの本当の幸せ

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 長く施設に入っていた母が亡くなった。  アルコール依存症から認知症を患い、晩年は現実と夢の中を交互に過ごしているようだったとはいえ、突然の別れだった。  亡くなる前日の夕刻時、ナツコは五日ぶりに施設を訪れた。夕食の肉じゃがを美味しそうに頬張る横顔。最後に見た母は、幸せそうだった。 「申し訳ございません」  朝食に出た味噌汁を誤嚥したのだと説明があり、施設の管理者と職員の数名が、若いナツコに向かって横並びで頭を下げた。  亡くなるまでの経緯や、最期の様子。母は何を思い息を引き取ったのか━━尋ねたいことは山ほどあったのだけれど。余りに唐突すぎて、上手く言葉にならなかった。何か発せば、責め口調になりかねない。それだけは避けたかった。偽善云々はさておき、長きに渡り、身内である自分に代わって介護をしてもらったという負い目があったからに他ならなかった。 「今日まで、ありがとうございました。感謝いたします」  控えめな言葉と深々としたお辞儀を繰り出すナツコを前に、職員たちはホッとした表情を浮かべた。 ━━これでいい。母は寿命が尽きたのだ。  財産もなく、頼りになる親族も思い浮かばない。施設を通じて役場へ連絡を入れると、あっさりと直葬を勧められ。瞬く間に母の肉体は灰になった。
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