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ナツコは、激しく悔やんでいた。
頭こそ抱えなかったけれど、パンプスを履いた爪先の左右を見比べては、深いため息をつき続けている。そうして目の前で繰り広げられる光景から逃避を試みるも、出番は刻一刻と迫り来ているのだ。
━━やっぱり、断ればよかった。
地方の芸能事務所に所属して四年。冴えない広告モデルから抜け出せないナツコに、マネージャーの秋永が持ち込んだ仕事は『水着審査あり』のレースクィーン選考オーディションだった。
より大きく見せるために乳房を寄せて上げ、より長く見せるために股下を極限までハイレグカットで食い込ませる。そうまでして惜しげもなく肢体を晒けだす女の群れが、否が応でも目に入るのだ。
自信の大きさと反比例するかのように小さな布をまとった彼女らは、より魅力的に見えるポージングを各々が熱心に鏡の前で演じていた。
━━私、完全に場違いじゃない……。
いつだって、そうだ。何度ため息をついても、後の祭り。
二週間前。有無を言わさぬ調子の秋永から、ナツコは唐突に告げられたのだ。
「森野さん、レースクイーンのオーディションに欠員が出ちゃったんだ。受けるよね、返事は?」
「は、はい。え、レースクイーン?」
「そう、レースクイーン。水着、用意しといてね」
「水着!?」
端から断る、という選択肢を用意してはくれない秋永の依頼は、いつだって強引で絶対だ。
『出かけるの? じゃあ、帰りにお豆腐買ってきてね。忘れないでよ』
お使いを我が子に命ずる母親のように。
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