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『大橋シンヤ』と聞けば、「ああ、あのテレビに出ている?」と誰もが頷く。それほど名の知れた男であり、売れっ子芸能人である。主な仕事は司会業。機転の良さで制作陣も一目置く存在といえた。
……ただし、一部地域限定の地方タレントとして、だけれど。
シンヤが企画とMCを務める番組は、ことごとく当たると評判だった。多趣味で幅広い知識を持つ彼は、毒のような低俗さと薬のようなインテリジェンスを良い塩梅で保ちつつ、ソツのない進行をこなす。世間では、そう評価されていた。
とりわけ、自身の名である『シンヤ』とかけてタイトルをつけられた深夜帯番組『深夜のシンヤ』は、毎週高視聴率を叩きだしていた。扱う話題は、経済・グルメ・音楽・風俗……と節操がまるでなかったけれど。「数字が取れてナンボ」な業界では、無双状態といえた。
……ただし、一部地域限定のみの、武勇伝なのだけれど。
「そろそろ、全国区進出を狙ってもいいんじゃないですか」
三十を過ぎた辺りから、そんな言葉を挨拶代わりにかけてくる人間がシンヤの周りに増えた。その度にシンヤは、
「そんな器じゃないですよ」
と、謙遜してみせるのだ。
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