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東京へ出ることをまるで考えないわけではなかった。けれど、それも血気盛んだった頃までの話だ。
十数年前、一度だけキー局の番組に出演したことがあった。地方のタレントをひな壇に添えて、故郷をPRするバラエティの1コーナーだった。
ーー爪痕を残してやる。
二十代の駆け出しだったシンヤは鼻息荒く臨むも、出演放送時間はトータルでほんの三十秒程度だった。
ーー『狭い場所でチヤホヤされる存在』であろう。
そう開き直り、現在の地位を築くことができたのも、過去の苦い経験があってのことだ。
ーー『井の中の蛙』と言われようが、『ヘタレ』だと叩かれようが、それが自分の見つけた幸せだ。
多くを望まず、身の程を知る。そう自身に言い聞かせてきた結果、シンヤは現在の地位を築くことに成功したのだった。
森野ナツコ……不思議な女だった。
本人は無自覚だったけれど、見た目だけを評価するなら、非の打ちどころのない完璧なスタイルを備えていた。
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