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「でもやっぱり、関係なくなっちゃうのは嫌だ。他の人はどうだっていいけど、川名との関係が切れるのは嫌だ。川名に他に好きな人がいても……、勝手でごめんね」
自嘲気味に笑いながら川名の袖を離すと、彼が私の手をぐいっと引っ張った。
「え、ちょっと待って。なんか俺、今一方的にフラれてない……?」
「違うよ。フラれたのは私。ごめんね、カノジョと帰るところを邪魔しちゃって。もうほんとに大丈夫だから、行ってね」
綺麗に笑って手を振りたかったけど、頬に力が入らず笑顔がへにょっと歪む。だけど川名は私の前から立ち去らず、それどころかつかんだ私の手をぎゅっと握った。
「いや、邪魔とかじゃないし。あいつはただの友達だし。そもそも、三芳のこと追って来てる時点で優先順位の違いは歴然だろ」
早口でそう言った川名の言葉に、胸がドクンと高鳴る。
「昼休みにも言ったけど、昔からずっと俺の目を惹くのは三芳だけなんだ、って。どこにいても何してても。だから……」
首に手をあてた川名が、照れ臭そうに視線を下げた。
「これからはもう少し近くで三芳のこと気にかけてていい?」
「ありがとう」
はにかむ私に、川名がくしゃりと笑う。
昔はあたりまえにそばで見ていたはずの彼の笑顔が、今は甘苦しい愛おしさで私の胸を締め付けた。
落ち込んだ日も、悲しい日も、彼がそばにいてくれたら、それだけで笑えるような気がする。
今日も明日も明後日も。明後日の、その先も。
【完】
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