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相手の出方によっては自分を追い込むこともあるのかもしれないのに。でも、その考えはない。
先輩の目線は冷たい。
酷いと思われるかもしれないけど、その目線はまるで自分で殺して人間を見るかのような視線。にらめっこで勝てる要素は微塵もない。
負け知らずなのかもしれない。そう考えても視線は外してはくれない。
だからって「トイレ行ってきます」なんて退場が許されるとは思えない。
仮にも先輩なんだ。年上なんだ。
上下関係も熟知していない幼稚発言によって怒らせることだってあるかもしれない。それとも今現在、怒っているのだろうか。
今一度、視線を合わせてみる。今度はまっすぐにできるだけ瞬きをしないように。先輩の眼に映る自分。その自分に映る先輩。
そんな無限回廊に囚われていたとき先輩が視線を外した。一言呟いて。
「………負けね」
そう呟いた。
負け?やっぱりにらめっこでもしていたのか。大人げないことをする。
「どういうことですか?」
「実験をしてたのよ。まぁ心理テストと言うべきかしら。二人が視線を合わせた時ずっと長い間、見詰めていた方が好きっていう気持ちが強いっていう」
「へ?」
本当にえ?だった。それってつまり。
「私はあなたが好きよ」
酷い焦燥感に襲われた。酷い羞恥心に襲われた。酷い放心状態に襲われた。
私はあなたが好き?それって一体どういうことだろう。
「さぁ、帰りましょうか。もう私たち恋人同士なんだから」
おしまい。©2021年 冬迷硝子。
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