*イッツ・ジャスト・ビガン

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*イッツ・ジャスト・ビガン

 戦争の前には、自意識の高低差で、他人を見下す風潮があった。  情報社会の最先端に帰属し、その恩恵で財を成し、貴族さながらに高い城の優位に酔いしれる選民。その連中は自分が口にする食物を寒冷や灼熱の日々に耐えながら穫り捧げてくれる尊い民が、生きることに精一杯なことを鼻で笑っていた。    七色に燐光する脳髄を持つ嬰児だった半分の者は、先ずそのことが解せなかった。幽閉された自分が世界に干渉出来る術を学ぶ最中に起きたある疫病で世界が右往左往したことが彼の復讐手段の発案になった。    コミュニケーション不在のコミューンで、右向け右前に倣えのお墨付きに群がる大衆に備わる群衆共鳴本能を、その宗教求心を利用しよう。人類は愚劣な思考に同調し無益な殺生を繰り返したじゃないか。  叡智による均衡を反故にした代償を破滅で償わせよう。 「お父さん=お母さんが与えた、時間差の無い同時代性連帯を育む進化の飛び石チャンスも無駄にし、無記名な個の欲望の掃き溜めにしてしまった愚かさを呪うがいい」  彼は呟思た。  パンデミック。Pandemic。  Pan Demic / [pan] (全ての) [demic](人々)  Pand Emic / [(Ex):pand] (拡散する) [emic](言語文化分析内部的観点)  パン・デミックを利用しパンド・エミックへの意識転換を。  そして誰も読めない母=父の残した言語の収まる禁断の箱を開け理解した嬰児は、最後の仕上げに『パンドラ・ミックス』を世に放った。  疫病に打ち勝ったばかりの人類に、『液病』という宗教を布教しよう。  物言わぬエレメントの思考を理解せず、存在しない次元のせいにして、階層の薄氷ごときも透過注視出来ない地球人類の愚かさを破壊しよう。 「滅びてしまえばいい!」
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