新たな日常

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「続いては前期生徒会役員任命式行います。一同起立!」 司会の生徒の合図で一斉に生徒達が立ち上がり、講堂の中央通路を新生徒会役員が通ると上品に45度のお辞儀をしていく。 外部の者からすれば奇妙に思えるこの光景は能力絶対主義を掲げるこの学園を象徴するものであり、誇り高き伝統だ。 劇場のように広いホールは静寂に包まれ彼らの足音のみが響く。 眩しい… 長い通路を歩き終え登壇すると眩いばかりのスポットライトが頭上から降り注がれ思わず目を伏せたくなりそうだ。 眼下に広がる600人の生徒達を見渡すと手に汗が滲む。 努力に努力を重ね、遂に辿り着いたこの場所で本当に自分は上手くやっていけるのだろうか。 らしくもない弱音ばかりが心に降り積もり、軽く深呼吸をしてそれらの感情を払拭すると幾分か心が軽くなった気がした。 ____私立葉ノ宮学園高等学校。通称葉ノ宮は長い歴史を持つ伝統的な全寮制の寄宿学校であり、日本屈指の難関大学である花ノ宮大学の唯一の付属校高校である。 付属の小等部と中等部もあるがその制度は極めて特殊で、小等部の露森小学校を卒業した者は12歳の誕生日に通知される第二の性の検査結果によってアルファのみが進学する鈴宮中学かベータとオメガが進学する青葉中学と進学先が分かれる。 そして青葉から葉ノ宮に進学できる人数は鈴宮よりも圧倒的に少なく、オメガが進学するケースは極めて稀だ。 そのおかげで僕が周囲の生徒にオメガではなくベータだと思わせることが容易い。 まぁもしもオメガが居たとしてもこんなアルファだらけの場所で隠さないのは自殺行為だ。 二期制の葉ノ宮では本来生徒会役員は1年と2年から2人の初期と会計を会長が任命し、生徒会長選挙には2年の後期から立候補出来るという決まりがあるのだが、今期も引き続き当選した前生徒会長と副会長が特待枠として急遽イギリス留学が決まった為、生徒会長には書記の僕が、副会長には会計のアイツが2人から任命されたという訳だ。 ……正直、選挙だったら負けていたかもしれない。 隣に立っている彼をこっそり横目で見るといつも通り完璧な笑顔を生徒達に向けていた。
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