女神の加護

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女神の加護

◇◇◇  ぼんやりと目覚めたとき、周囲は明るい光に満ちていた。  だから、ああ、ついに死んだのかな、と思った。  けれど、その後に、急に全身に痛みがやってきた。そして下肢がひどくだるい。 「目覚められたか」  枕元で誰かが声をかけてきて、ロンロは目だけ動かした。 「……あれ? 僕……?」  生きてる? 「よく生きておられた。もう大丈夫じゃ」  それは、あの老学師だった。  ロンロが寝かされていたのは、王の寝室だった。そこに、老学師のほかに司教や家臣、ララレルがいる。王は離れた場所で、椅子に腰かけていた。 「陛下、ロンロ様がお目覚めです」  声をかけられて、グラングがゆっくりと立ちあがる。その姿は、今にも倒れそうなくらい憔悴していた。 「僕、……死んでないのですか」 「ああ。よく持ちこたえられた」  老学師が穏やかに微笑む。 「王は薬が切れるまで、十三日間、そなたと繋がったままでいた。その間、飲み食いも、眠りもせずに。十四日目にやっと王は身を離された。そなたは瀕死の状態で、それでも生きていた。その後十日間、昏睡状態で高熱にうなされ、毛もすべて抜け落ちてしまった。しかし、女神の加護で、救われた。これは奇跡だ」  グラングがベッドまでやってくる。目は落ちくぼみ、無精ひげが生えていた。 「ロンロ」  枕元に腰かけると、頭を撫でてくる。ほぼ禿げてしまった頭頂部には、フワフワの新たな毛が生えているようだった。 「助かって、よかった」 「グラング」  そして、身をひねって後ろに立つ司教に向き直った。 「これで納得しただろう。ロンロは私の妃だ」  司教は眉間に皺をよせ、こちらを見つめていた。  肉太いあごをグッと引き、重々しく一言告げる。 「……もう一度、確かめさせて下さい」  その言葉に、ギョッとなった。 「――え?」  確かめるって、何を?  もしかして、また十三日間まぐわえと? 「よかろう」  グラングの答えに、蒼白になる。 「え。え? ……あの、もう一回だと、今度は、ホントに……死にますが」 「ロンロ、獣化できるか?」 「え?」 「そのほうがわかりやすい」  言われて、訳もわからぬまま上体を起こす。きしむ身体をコロンと回転させて、犬へと変化した。 「腹を見せてみろ」  グラングが命令する。ロンロは仰向けになって、両足を持ちあげた。 「なるほど、これですか」  老学師、王、そして司教が、ロンロの股間を凝視する。ロンロは恥ずかしさに混乱した。 「い、いったい、これは……」 「確かに、小さいですが、これは明らかに……女神の証」  え? 女神の証?  「ぼ、僕のちんちんどうなっちゃったの」  ロンロは慌てて自分の股間に目をやった。 「ちんちんではない。ほら、ここだ」  老学師が腹を指さす。 「この、性器の横の一房の毛。これが虹色なのだ。これはまさしく、太古の虹色狼の血を継ぐ証。ロンロ殿、そなたは犬でありながら、祖先に虹色狼の血をわけてもらっていたのだ」 「え? え? ええ」 「こんな場所だったから今まで誰も気づかなかったのだろう。王しか知らぬ、いや、王でさえ気づけなかった」 「……」  司教が苦虫をかみつぶしたような顔で、しかし厳かに言った。 「確かにこれは女神の証。教会に保管されている虹色狼の毛と同じだ。教会はロンロ様を女神の末裔と認めるしかない」  それにロンロは目を瞠った。 「ロンロ」  王が犬になったロンロの頭をさすりながらたずねてくる。 「お前と私を陥れようとした司教を、お前はどう罰したい?」  その言葉に、司教が急に震えあがった。
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