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最終話
「お、お、お許し下さい、ロンロ様っ。知らなかったとは言え……っ」
ガバリと床に伏せて、頭を床板にこすりつける。
「首を噛みちぎるか、それとも生皮をはぐか」
「ひぃぃ……っ」
ブルブル震える司教に、ロンロは可哀想になって答えた。
「あの、えっと、いや別に、何もしなくていいです。司教様も知らなかったのだし。僕も、毛のことは今までわかんなかったし」
奴隷生活で、薄汚いままだったから気づきもしなかった。
「では、司教よ。我が番の慈悲をもって、今回は不問とする。感謝して一生、ロンロに仕えよ」
「は、は、はいっ」
銀色の耳をぺしゃんこになるくらい倒して、司教が返事をした。
「ロンロ」
王が小さな犬になったロンロを抱きあげる。胸にそっとより添わせると、優しくささやいた。
「これでお前は、私の妃だ。お前と番になったのは、女神の導き。まさに運命であった。どうだ、私と、結婚してくれるか?」
白金の王は、ロンロのやわらかな毛を撫でながらたずねてきた。
「……」
ロンロは周囲を見渡した。部屋にいる全員が、ふたりを見守っている。誰も異を唱える者はいない。そして、皆の顔には王の幸せを願う様子があった。
「……はい」
そっと、小声で答えれば、グラングはプラチナのように輝く笑みを見せてきた。
◇◇◇
そして数日後、婚礼の儀は滞りなく執り行われることとなった。
大聖堂の控え室で、儀式用の華美な衣装を身につけたロンロは、式が始まるのをララレルと共に待っていた。
「けどさ、狼たちは、わかってないよな」
虹色の首飾りを身につけたロンロを見ながら、ララレルが言う。
「何を?」
ロンロが聞き返す。ララレルは花嫁衣装をマジマジと眺めつつ答えた。
「お前は虹色狼の血を引いていて、生えかわった毛は前より綺麗になったけれど、一番大切なことに、奴らは気づいていない」
「一番、大切なこと?」
「つまり、お前は不細工なままだってこと」
「あ、確かに」
納得して頷く。今着ている礼服だって、どうみても馬子に衣装だ。
「けど、俺はもう、お妃の座なんて狙わないよ。だって、十三日間も王様の相手をして、生き残れる自信はねーや。このまま、従者としてまったり暮らすわ」
「それもいいね」
ふたりでアハハと笑っていると、グラングが家臣と共に部屋にやってくる。
「さあ、準備はできたか。祭壇の女神が私たちを待っているぞ」
グラングは、真っ白な美しい礼服を身にまとっていた。剣を佩きマントをつけ、頭上には白金の王冠が輝いている。どこから見ても王者の風格を備えた、高貴な白金狼だ。
その純白の手袋をはめた手が差し出される。
「はい」
ロンロは、嬉しさと恥ずかしさに頬を染めながら、王の手に、自分の手のひらを添えたのだった。
◇◇◇
――狼国に新たな王子が誕生したのは、式から間もなくのことだった。
五人の子供が生まれ、そして翌々年にまた五人。さらに六人。
ロンロとグラングは、沢山の子供たちに囲まれて幸せに暮らし、狼国は前にも増して繁栄した。
そして、従者ララレルは山盛りの子供たちの世話に奔走することとなり、決してまったりとは暮らせなかったのだった。
【終わり】
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