第2話 殺さない殺し屋

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ボスがいる部屋のドアをノックする。 「有明です。リーラを連れてきました。」 少しの間沈黙が続いた。 「入れ。」 「失礼します。」 ドアを開けると、いつも通りボスと秘書がいた。 冬馬がリーラをボスの前に連れていく。 実は鞄を椅子の上に置く。 腰を痛そうにさする。 「ご苦労だった。君がリーラか?」 リーラがボスの前に立ち、腕を組む。 「あんたが天神商会のボス?そうよ、アタシがリーラ。何か用があるのかしら?」 「…君は我が商会に入る気はないかな?」 リーラが嘲笑うように答える。 「アタシが?ふふっ、それはアタシが頷く最高の条件があるのかしら?」 「ああ、勿論。」 そう言うと、ボスは秘書に目配せする。 秘書は後ろに置いてあったショーケースをテーブルに置く。 中身を開けると、大量の札束が入っていた。 「約2億だ。君が依頼されている商会よりも、相当良い条件だと思うがね?」 リーラはその札束に軽く触れ、ショーケースを閉じる。 「どこで商会の条件を知ったかはあえて聞かないけど…今のアタシに金は必要ない。この条件なら断るわ。」 手を軽く振るリーラ。 それを見たボスは困った表情をしたが、逆に問いかけた。 「なら…君は何を望む?」 リーラの眉毛が一瞬動き、ボスに向き直る。 少し考えた後、リーラが口を開く。 「アタシが望む条件は3つ。この全ての条件を飲めるって言うなら、あんたの所に入ってあげてもいいわよ。」 一つ間を置き、リーラが続ける。 「一つ目は、アタシの住むところの提供と毎日食事を摂ることが出来る保証。こっちに来て、宿無しなの。銃も持ち歩かなきゃいけないから不審がられるのよね。あと、どうせプロのシェフとか雇ってるんでしょ?買いに行くの面倒だし、ついでにあたしにも提供しなさいよ。」 一つの条件が的確で、難しい条件だと冬馬は聞いていた。 「二つ目は、アタシに殺しをさせないこと。」 一瞬驚いた表情をした実と冬馬。 しかし、ボスと秘書は冷静に聞いていた。 「アタシは人殺しにはなりたくないの。だから、気絶するように狙ってあとはアタシの奴隷みたいな感じかしら。コレは毎回言ってる条件。ターゲットを裏社会から抹殺するのを条件に、あとはアタシの好きにさせてって訳。勿論、そいつには二度と裏社会に手を出させないわ。もし、目の前に現れたりしたら、その時は殺すけどね。1度だけチャンス…見逃してあげる感じかしら。」 ボスは頷く。 どうやらここまでは想定内だったらしい。 その顔を見て、リーラは最後の条件を出した。 「最後の条件は…そうね。あの人はなんて言うのかしら?」 そう言うと、リーラは冬馬を指さした。 「有明冬馬だ。天神商会の幹部をしている。」 ボスがすかさず説明する。 「ふーん。」 少し考えたような素振りをみせ、微笑み交じりでリーラは言う。 「出来れば、あの人の隣の部屋がいいわ。」 「は!?」 冬馬は声を上げた。 リーラが何を言ったのか、一瞬わからなかった。 「何故か理由を聞いても?」 ボスも疑問に思い、リーラに問う。 リーラは少し頬を染め、照れながら 「アタシの好みの男性だからに決まってるでしょ?言わせないでよね。」 場が一瞬凍りついた。 が、ボスが咳払いをし、冬馬に問いかける。 「有明…お前はいいのか?」 少し考えた冬馬は、はっきりと告げる。 「俺は構いません。お役に立てるなら。」 そう言う冬馬にボスは頷き、リーラに問う。 「それで全てか?」 ボスの問いかけに頷こうとしたリーラだが、 「あ、待って。一つ忘れてたわ。」 そう言うとボスに近づく。冬馬の警戒心が強まる。リーラが口を開く。 「あんたの愛人と一体一で、話がしたい。」 「…それはどういうことだね?」 さすがのボスも懸念の表情を浮かべる。 しかし、リーラはお退けたようにいう。 「別に何もしないわよ。ただ、女ひとり幸せに出来ない奴が、商会のボスやったって、駄目なだけ。それを聞いて判断するの。それもアタシのポリシーよ。」 はっきりそう言うリーラ。 沈黙が続く。 ボスが秘書に命じた。 「麻亜里を連れてこい。」 「かしこまりました。」 秘書が部屋から出ていく。 それを見たリーラは微笑み、近くの椅子に座る。 「話が早くて助かったわ。」 そう言いながら爪をいじる。 本当に調子が狂う会話だと、冬馬はため息を小さくこぼす。 実が薄笑みを浮かべ 「隣の部屋になったら何されるかわかんねぇな。」 そう冬馬に言う。 冬馬はイラッとし、実の足を思いっきり踏んづけた。 「…ッイ!!」 短く悲鳴を上げた実はその場にうずくまった。 しばらくたった時、足音が聞こえた。 リーラは立ち上がり、扉に注目した。 秘書が扉を開け、麻亜里を中に入るよううがした。 麻亜里は赤色の綺麗なワンピースを着ていた。 黒のハイヒールが、軽快な音を鳴らす。 麻亜里はボスの前でお辞儀をする。 「何の御用でしょうか?」 うやうやしくそう言う麻亜里の手を、 リーラが握りしめた。 「すっ、すごく綺麗だわ!」 「え!なっ、、何?」 麻亜里は戸惑いの声を上げる。 リーラはボスに向けて言う。 「一体一で話がしたいのだけれど、場所はどこで?」 ボスが立ち上がる。 「ここを空けよう。15分後にまた来る。それまでに、判断しておけ。」 そう言うと、秘書と共に部屋を出た。 それに続き、冬馬と実も部屋を出る。 冬馬はボスに問う。 「2人っきりにして大丈夫でしょうか?」 「…15分だ。その間だけだ。それに、麻亜里も自分を守るすべを知っている。」 そう平然にボスは言うが、少し焦っているようにも見えた。
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