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ボスがいる部屋のドアをノックする。
「有明です。リーラを連れてきました。」
少しの間沈黙が続いた。
「入れ。」
「失礼します。」
ドアを開けると、いつも通りボスと秘書がいた。
冬馬がリーラをボスの前に連れていく。
実は鞄を椅子の上に置く。
腰を痛そうにさする。
「ご苦労だった。君がリーラか?」
リーラがボスの前に立ち、腕を組む。
「あんたが天神商会のボス?そうよ、アタシがリーラ。何か用があるのかしら?」
「…君は我が商会に入る気はないかな?」
リーラが嘲笑うように答える。
「アタシが?ふふっ、それはアタシが頷く最高の条件があるのかしら?」
「ああ、勿論。」
そう言うと、ボスは秘書に目配せする。
秘書は後ろに置いてあったショーケースをテーブルに置く。
中身を開けると、大量の札束が入っていた。
「約2億だ。君が依頼されている商会よりも、相当良い条件だと思うがね?」
リーラはその札束に軽く触れ、ショーケースを閉じる。
「どこで商会の条件を知ったかはあえて聞かないけど…今のアタシに金は必要ない。この条件なら断るわ。」
手を軽く振るリーラ。
それを見たボスは困った表情をしたが、逆に問いかけた。
「なら…君は何を望む?」
リーラの眉毛が一瞬動き、ボスに向き直る。
少し考えた後、リーラが口を開く。
「アタシが望む条件は3つ。この全ての条件を飲めるって言うなら、あんたの所に入ってあげてもいいわよ。」
一つ間を置き、リーラが続ける。
「一つ目は、アタシの住むところの提供と毎日食事を摂ることが出来る保証。こっちに来て、宿無しなの。銃も持ち歩かなきゃいけないから不審がられるのよね。あと、どうせプロのシェフとか雇ってるんでしょ?買いに行くの面倒だし、ついでにあたしにも提供しなさいよ。」
一つの条件が的確で、難しい条件だと冬馬は聞いていた。
「二つ目は、アタシに殺しをさせないこと。」
一瞬驚いた表情をした実と冬馬。
しかし、ボスと秘書は冷静に聞いていた。
「アタシは人殺しにはなりたくないの。だから、気絶するように狙ってあとはアタシの奴隷みたいな感じかしら。コレは毎回言ってる条件。ターゲットを裏社会から抹殺するのを条件に、あとはアタシの好きにさせてって訳。勿論、そいつには二度と裏社会に手を出させないわ。もし、目の前に現れたりしたら、その時は殺すけどね。1度だけチャンス…見逃してあげる感じかしら。」
ボスは頷く。
どうやらここまでは想定内だったらしい。
その顔を見て、リーラは最後の条件を出した。
「最後の条件は…そうね。あの人はなんて言うのかしら?」
そう言うと、リーラは冬馬を指さした。
「有明冬馬だ。天神商会の幹部をしている。」
ボスがすかさず説明する。
「ふーん。」
少し考えたような素振りをみせ、微笑み交じりでリーラは言う。
「出来れば、あの人の隣の部屋がいいわ。」
「は!?」
冬馬は声を上げた。
リーラが何を言ったのか、一瞬わからなかった。
「何故か理由を聞いても?」
ボスも疑問に思い、リーラに問う。
リーラは少し頬を染め、照れながら
「アタシの好みの男性だからに決まってるでしょ?言わせないでよね。」
場が一瞬凍りついた。
が、ボスが咳払いをし、冬馬に問いかける。
「有明…お前はいいのか?」
少し考えた冬馬は、はっきりと告げる。
「俺は構いません。お役に立てるなら。」
そう言う冬馬にボスは頷き、リーラに問う。
「それで全てか?」
ボスの問いかけに頷こうとしたリーラだが、
「あ、待って。一つ忘れてたわ。」
そう言うとボスに近づく。冬馬の警戒心が強まる。リーラが口を開く。
「あんたの愛人と一体一で、話がしたい。」
「…それはどういうことだね?」
さすがのボスも懸念の表情を浮かべる。
しかし、リーラはお退けたようにいう。
「別に何もしないわよ。ただ、女ひとり幸せに出来ない奴が、商会のボスやったって、駄目なだけ。それを聞いて判断するの。それもアタシのポリシーよ。」
はっきりそう言うリーラ。
沈黙が続く。
ボスが秘書に命じた。
「麻亜里を連れてこい。」
「かしこまりました。」
秘書が部屋から出ていく。
それを見たリーラは微笑み、近くの椅子に座る。
「話が早くて助かったわ。」
そう言いながら爪をいじる。
本当に調子が狂う会話だと、冬馬はため息を小さくこぼす。
実が薄笑みを浮かべ
「隣の部屋になったら何されるかわかんねぇな。」
そう冬馬に言う。
冬馬はイラッとし、実の足を思いっきり踏んづけた。
「…ッイ!!」
短く悲鳴を上げた実はその場にうずくまった。
しばらくたった時、足音が聞こえた。
リーラは立ち上がり、扉に注目した。
秘書が扉を開け、麻亜里を中に入るよううがした。
麻亜里は赤色の綺麗なワンピースを着ていた。
黒のハイヒールが、軽快な音を鳴らす。
麻亜里はボスの前でお辞儀をする。
「何の御用でしょうか?」
うやうやしくそう言う麻亜里の手を、
リーラが握りしめた。
「すっ、すごく綺麗だわ!」
「え!なっ、、何?」
麻亜里は戸惑いの声を上げる。
リーラはボスに向けて言う。
「一体一で話がしたいのだけれど、場所はどこで?」
ボスが立ち上がる。
「ここを空けよう。15分後にまた来る。それまでに、判断しておけ。」
そう言うと、秘書と共に部屋を出た。
それに続き、冬馬と実も部屋を出る。
冬馬はボスに問う。
「2人っきりにして大丈夫でしょうか?」
「…15分だ。その間だけだ。それに、麻亜里も自分を守るすべを知っている。」
そう平然にボスは言うが、少し焦っているようにも見えた。
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