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その日は家に帰り、明日に備えた。
天神商会はいつでも収集がかけられるように、25階建てのビルを1つ天神商会用に改造している。
ボスと麻亜里は最上階に住み、冬馬は20階に住む。
収集をかけられるボスの書斎は24階になり、19階からその下からはカジノやバーなどとして使われていた。
外見は普通だが、中は複雑になっている。
初見では短時間で簡単にボスの部屋へ辿り着けない仕組みになっている。
朝9時からまたバーを巡る約束を実とし、
シャワーを浴び、もう一度冊子を見た。
ふと、ボスの言葉を思い返した。
「今は近くに依頼で来ているらしい。」
ボスが言っていた言葉を口に出す。
冬馬にある考えが浮かんだ。
「こっちに来てるなら、ホテルを当たった方が早いか…」
バー以上に何件もあるホテルを思い浮かべ、冷や汗が出た。
しかし、ボスの命令なら仕方ないと、枕に顔をうずめた。
朝7時のアラームをとめ、ゆっくり起き上がる。
寝癖を抑えながら、鏡の前に立つ。
昨日夜遅くまで酒を飲んだせいで、少し頭が痛む。
軽めの朝食をとりながら冊子を見る。
空になった皿を片付け、実に電話をする。
4コール目で出た。
「もしもしー。おはよう冬馬。何?」
寝起きなのか、少し眠そうだった。
「バーをホテルに変更するぞ。」
「は?で、でもバーの方が…」
「まさかお前、バーで酒が飲めるとでも思ってるんじゃないだろうな?」
「あ、バレた?」
罪悪感なしの声で言う実。
溜息をつき冬馬は言う。
「時間変更だ、2時間早めるぞ。」
「はぁ!?ちょ、2時間って…」
「じゃあまた下で。」
「ちょっ、冬」
電話を切り、髪を整える。
スーツを整え、1階に降りる。
ドレス姿の女性と絡む実の姿があった。
「何をしてる。実。」
実はこちらに気づくと女性と軽くハグをし、女性はバーの方へ歩いて行った。
冬馬は実に近づいた。
実の首筋にはキスマークがあった。
「実。またお前は…」
「これは誤解なんだってぇ、さっきの姉ちゃんが離してくれなくってさ。照れちゃうよね。」
「はぁ。行くぞ。」
冬馬と実は1件目のホテルへ向かった。
大きなバックを持った人達がホテルのチェックアウトを行っていた。
客が出たあと、冬馬は写真をホテルマンに見せる。
「すみません。この人物に見覚えは?」
ホテルマンが写真をまじまじと見る。
しかし、首を傾げ、
「さぁ。見覚えありませんね。」
「…そうですか。」
冊子をなおし、また次のホテルへ向かった。
それを繰り返していると、昼になっていた。
「そろそろ飯にしようよ。近くに天ぷら屋があるだろ?俺もうヘトヘト…」
汗を拭いながら実はがため息をこぼす。
冬馬が腕時計を見て、
「まぁ、そうだな。」
近くにあった天ぷら屋「ひらい」に入った。
「いらっしゃいませ!2名様ですか?2名様ですね?2名様入りまーす!」
案内された席に座り、出された柚塩辛を食べる。
「しっかし、見つからないよね。リーラ。本当にこっちに来てるのかな?」
「秘書の情報は絶対だ。今まで1度も誤った情報をボスに渡したことは無い。だからこそ、ボスの秘書を長く続けている。」
「でも、もう帰っちゃったかもしれないじゃーん。」
「それは…」
冬馬はイカの天ぷらを天つゆに付けながら、冊子の写真を何となく眺める。
「ピーマンになりま…あれ?その人探してるんですか?」
「あれれ、お姉さんもしかして知ってるの?」
実がすかさず質問する。
「ええ、昨日お昼に食べに来てましたよ。なんだろう。髪がピンク色で男性なのに濃ゆいメイクしてたから印象に残ってるんですよね。」
「ビンゴだね!!ありがとうお姉さん。ちなみにLINEを…」
「ありがとう。行くぞ実。」
「え、オレまだ食べ終わって、ちょ、ちょっと待ってよ!!」
残りの天ぷらをかきこみ、急いで追いかける実。
ひらいに近いホテルを急いで検索した。
「ちょっと冬馬。食後にいきなり走るのはきついって、それにお姉さんの連絡先交換し損ねちゃったじゃん。」
頬を膨らます実に、冬馬は自分のケータイを見せる。
「検索結果は21件だ。ここを今日中に回るぞ。」
「げ!結構範囲広いじゃん!何それ、控えめに言って鬼畜じゃん!」
「つべこべ言わずに行動する。タクシー!」
「何冬馬熱くなってる訳?」
げんなりする実とは裏腹に、何とかして見つけようと冬馬はスマホを見つめた。
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