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「お前も『今の自分の音』を聴かせろ」
「え?」
「あれはお前の音じゃなかっただろ?」
綴があれと称した音がどの音なのかは分かりきっている。
「ちゃんと、お前のテストをする」
「え?!」
驚いて、奏司がプレーヤーを落としそうになる。
「いや、それはダメですよ。あれ一回って約束で受けてもらったのに」
「真面目かお前は」
綴が奏司の飲みかけの野菜ジュースを取って一口飲む。
「自分の音も出さないで終わるなんて、俺だったら嫌だけどな」
「…それは」
奏司も何か思う所があるのか、肯定の意味を残したまま黙る。何より、今聴かされた綴の音が、奏司の中の奏でたい衝動を揺さぶった。
この音で歌う藤音綴を見たい。
「じゃああれだ、予選通過だな」
「予選?」
「ピアノのコンクールも予選と本選があるんだろ?」
「…はい」
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