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綴が机の上の煙草を手に取る。それを奏司の目の前に出すと、小さく手首を振った。フィルターの部分まで煙草が飛び出る。
「お前が今俺と居てストレス感じてるんなら吸っていいよ」
「………っ」
綴の言葉に、頭を殴られた感じがして、奏司が虚だった目を見開いた。真っ直ぐに見つめてくる綴の目にダメな自分が映っている。
「…ずるいよ、藤音さん」
奏司が俯く。
誰よりもずっと一緒に居たい人が目の前に居る。
母との電話の呪いは消えた。
客観視すれば、自分の今の状況は幸せ以外の何物でもない。
奏司は顔を上げると飛び出した煙草を人差し指で押し込んだ。
後ろでポットの再沸騰を知らせるベルが鳴った。綴は奏司の頭をくしゃっと撫でると、座って待ってろと合図した。
やばい、幸せ過ぎる。
奏司は撫でられた髪に手を当て綴を振り向く。
「で、藤音さんはいくつの時から吸ってるんですか?」
明るい声で奏司が聞く。
「俺はじゅ…、って言うかバカ」
綴がカップ麺にお湯を注ぎながら少し笑って奏司を睨んだ。
奏司は今になってやっと、藤音綴の部屋に居るのだという実感で死にそうになっていた。
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