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「奏司!」
入り口に続く狭い通路に豊が顔を出す。
「すんません長瀬さん、それ俺の連れです」
「そうなん?」
長瀬と呼ばれたお兄さんは豊の知り合いらしく、赤ネクタイの友達いるのかよお前と驚かれている。
「俺のパーカー着せるんで」
「おお」
豊が着ていたジップアップパーカーを脱いで奏司に差し出す。
「ごめん、制服じゃダメなの知らなかった」
奏司はブレザーを脱ぐと慌ててパーカーを羽織ってジッパーを上げた。
「ダメっていうか、まあ…こういう場所への出入り禁止してる高校もあるだろ?うちのガッコはいいけど、変な言いがかり避けるためもあんだよ」
成る程。
奏司は長瀬にぺこりと頭を下げた。長瀬は見た目と違った優しい笑顔で、いいから行きなと手を振った。
「早く奏司!もう藤音さんのバンド出てくるから!」
「うそ!」
奏司が慌ててドアを開けるのと客電が落ちるのが同じタイミングだった。そんなに混んではいないが移動はせず、奏司と豊は入り口近くの壁際で待機した。奏司はドキドキしながらステージに目を凝らす。
「この前のライヴの時はもっと満員じゃなかった?」
豊に問いかけたが「そうだな」と頷いただけだった。
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