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奏司がスマホの電源を落とす。いらない連絡が無いようにとの意味を込めて。
「マジか、明日だったか。帰って練習とかの予定だったか」
「家に帰ってたら寝ずに練習だったかもですね」
奏司が息を付いた。言わないけど疲れているのだろう。
「ねえ藤音さん」
「ん?」
奏司が赤いネクタイを緩めた。シャツのボタンを一つ外す。何だかいつもの奏司と雰囲気が違う気がして、綴はその疲れた顔に何とも言えない辛さを感じる。きっと家に戻ったらいつもこんな表情なのだろう。
「煙草、吸ってみたいです」
「………」
奏司がさっき綴が机に置いた煙草を見た。
「煙草ってストレス解消になるんでしょ?」
だから大人は吸ってるんでしょ?
「未成年とか、そんな面倒臭いこと、藤音さんも言うの?」
口元だけで奏司が笑う。明らかにいつもと違う奏司を、綴が無言で見つめる。いや、自分が知っている奏司なんてほんの少しで、ほんの数日で、どれが本当の佑木奏司かなんて自分にも分からない。
「藤音さん、ダメ?」
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