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「それで年一回、Christの結成日にだけ…追悼も込めてるのかな?藤音さんがChristの曲を演るライヴをするんだ。チケットの倍率めっちゃ高いんだよ。俺も三年目にしてやっと取れたから」
「年一回…だけ…?」
それ以外は歌わないのか?
「今のバンドNo-isていうんだけど、それを組む時もボーカルはやんないって条件だったみたいだぜ」
豊は少しだけ迷って、やっぱりと切り出した。
「だからな、年一回で我慢しろ。せっかくお前元気出てきたのに残念だけど、藤音さんが今は歌ってないって分かったろ?」
あの、魂を根こそぎもって行かれるような声を、歌を、一年でただの一日しか聴けないのか?
「………」
一緒に組んでいた人を亡くした、その哀しみは自分には計り知れない。藤音さんの中にどれだけの絶望を植えつけたのかも分からない、でも…。
「ダメだよ豊、俺もうあの人無しじゃ生きられないと思う」
「おいおい」
歌な、あの人の歌な、言い方考えろやと豊の方が顔を赤くする。
「俺はもうあの人の声に生かされてるんだ、あの日から」
息を出来たと思ったあの日から、音が綺麗に見えたあの日から、藤音綴の歌が、声がなければ、きっと生きていられない。水を与えられない植物のように。
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