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「赤ネクタイだー」
近くで誰かがそう話しているのが聞こえて奏司はそちらに顔を向けた。大学の生徒であろう、二人の男女が奏司の方を見て話している。
ネクタイ外してくればよかった、忘れてたなと奏司が思った時、男の方が話しかけてきた。
「時計坂の赤いネクタイした子がうちの大学見学っておかしくない?」
絶対入学しないやつじゃん、そう付け足す。
「何よ赤ネクタイって、そんな珍しい制服なの?」
近付いてきた女の子に「お前地元じゃないから知らないか」と言って奏司に向き直る。
「さっきからキョロキョロしてるけど、標識に載ってないどっか探してるの?」
あ、親切心のやつだこれ。
奏司はそう思って頭を下げる。音楽科では、赤いネクタイをステータスと思う者がほとんどだが、たまに絡まれたりもする時には厄介なものなのだ。奏司は赤いネクタイに特別感など抱いてはないが、制服を着崩すという習慣がない。
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