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「連れてってあげるよ軽音の部室まで」 「え、いいんですか?」 「真っ直ぐ行ってからもややこしいから」  男は連れの女性に先に行っててと告げると、奏司を促して歩き始めた。 「あの…」 「ああ俺は伊藤。藤音とは学部は違うんだけど一年の時に倫理学概論の授業で一緒になってね」 「倫理学…」  難しそうな響きだと思いながら奏司は伊藤に付いていく。  大学の構内は思っていたよりも全然広くて、文化部関連の部室に辿り着くまでに結構歩いた。  二階建てのアパートのような作りの建物が二棟在り、入り口側の前には数台のベンチ、その後ろには白いレンガで出来た花壇があって、数人の生徒が思い思いの場所に座って談笑している。手前の棟、一階の真ん中あたりに軽音楽部というプレートが見えた。 「藤音綴いますかー?」  伊藤がノックもなくドアを開ける。軽音部の部室には数人の男がいた。 「藤音さん?ああNo-isは今日部室使う日じゃないから、隣じゃないですか?」  その中の一人が答える。奏司は隣の部室に目をやる。『フォークソング部』と書かれている。藤音さんはフォークソングも演るんだろうか?と奏司はマジマジとそのプレートを眺めた。伊藤がまたノックせずにフォークソング部のドアに手をかけた。
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